公的医療の解体と営利化 医療・介護総合確保推進法の狙い

週刊『前進』08頁(2659号04面01)(2014/12/01)


公的医療の解体と営利化
 医療・介護総合確保推進法の狙い

医療施設への「報復と懲罰」で再編を強要

 医療・介護総合確保推進法(医療・介護総合法)は、入院から在宅へ、医療から介護へ、公的介護からボランティア・市場任せへと、患者を押し出そうとするものだ。政府は都道府県に904億円の基金を交付し、病床削減や医療介護の統廃合推進を強要しようとしている。
 病床再編の「協議」が不調な場合、都道府県は医療施設に「転換中止要請」(公的医療機関に対しては「命令」)、「不足医療提供要請」(同「指示」)、「不稼働病床削減要請」(同「命令」)を行い、従わないと施設名公表、補助金除外、地域医療支援病院などの不承認・承認取消しなどの報復と懲罰(ちょうばつ)をふるう。厚労省医政局長は、「最終手段として懐(ふところ)に武器を忍ばせている」と答弁(4月23日・衆院厚労委)している。
 厚労省が説明する「過当競合や偏在を正して共倒れを防ぐため、強制ではなく協議と合意で進める」とは、「無駄な抵抗をやめて、弱肉強食の医療再編を受け入れろ」という意味だ。
 新自由主義は、医療を営利資本のエジキとして完全開放することを狙っている。だが公的医療保険制度のもとでの医療の新自由主義化は、医療費高騰をまねく。医療費を削減し続けながら医療を営利産業化するためには、公的医療の縮小・解体が不可欠一体なのだ。

病床削減と看護労働者への大リストラ

 厚労省は11月、全国の医療機関に病期や診療密度別に病床機能情報を報告させた。医療・介護総合法は2025年にすべての医療機関を四つの機能(高度急性期・一般急性期・亜急性期等・長期療養)にふりわけて病床数を再編=削減しようとしており、手始めに病床機能情報を報告させたのだ。
 支配階級は、公的医療費を削減するために病床数や入院日数を削減する。病床削減や入院日数削減は看護労働者の解雇・転職・労働強化をもたらす。
 「医療需要に対して病床が過剰だ」などというのはデマだ。受診の抑制・断念に追い込まれている多くの人びとの存在を無視抹殺した「医療需要」などウソの数字だ。「病床が過剰」なのではなく、真の医療需要に対して、医師・看護師を始めとする「医療従事者が不足」しているのだ。
 「7対1看護入院基本料」は小泉政権下の06年度診療報酬改定で創設され、新自由主義的競争をあおりたて、看護師争奪と看護師不足をまねいた。厚労省は7対1病床は4万床程度になると見込んでいたが、いまや36万床に達した。病院経営者は同じ治療をしても7対1病床の方が医療費が高い(1000床で約10億円の年収増)ので、稼働率を上げるために軽症患者も受け入れ、医療費は高騰していった。
 そこで国は、医療・介護総合法制定を前に14年4月の診療報酬改定で、7対1病床資格要件を厳格化し、9万床削減の大攻撃に踏みきった。7対1看護の削減は、患者への看護の質と量の低下であり、看護師への要員削減・労働強化だ。診療報酬改定では同時に、急性期後の患者の受け入れ体制強化のための地域包括ケア病棟・機能強化型訪問看護ステーションを新設した。
 医療コンサル会社GHCの試算によると、2025年に急性期病院の看護師は2010年に比べて約14万人減少し、現在約3万人いる訪問看護師は2025年に14万人不足するという。2008年3月に全社連労組組合員11人の選別解雇を強行した伊藤雅治・元厚労省医政局長は今年4月からGHC顧問となり、この試算を監修している。
 急性期病院で14万人の看護労働者が「過剰」とされ、14万人の訪問看護師が「不足」する。すさまじい規模での看護労働者の解雇、配転、転職、非正規化、大リストラ――これが病院機能再編をめぐる攻防だ。

公立病院に闘う労組拠点を建設しよう

 公立病院の独法化・民営化・統廃合の攻撃が激化している。仮に公立病院として存続しても、医療・介護総合法によって、病床再編の軸をになうことを「命令」されることになる。
 2012年4月施行の改悪地方公営企業法による新会計基準が2014年度から適用される。新会計基準は、借入資本金の負債計上、退職給付引当金など各種引き当ての義務化、「みなし償却制度」の廃止など「民間会計基準」がもちこまれ、黒字病院であっても一気に赤字決算として計上される。公立病院の合理化・統廃合・民営化を進めるためのものだ。中央社会保険医療協議会は2015年6月に医療経済実態調査を実施するが、ここで地方公営企業新会計基準による決算が俎上(そじょう)に上る。議会やマスコミでの公立病院=赤字攻撃が医療・介護総合法体制のもとで激化していく。
 医療解体攻撃を阻止し、新自由主義に断を下す現実性を、公的病院の労働者・労働組合こそが握りしめている。公的病院への攻撃の激化は、医療の「岩盤」の核心は医療労働運動、とりわけ公立病院・公的医療機関の労働運動にこそあるということだ。安倍を打倒し、大阪市長・橋下を完全破綻に追い込んだ階級的労働運動の真価を、いよいよ医療福祉という一大産別で発揮し闘おう。
(大阪労組交流センター 全社連労組特別執行委員 U)

このエントリーをはてなブックマークに追加