イラク・シリア空爆と争闘戦 米・欧が資源強奪の侵略戦争 中東大動乱と世界戦争の危機
イラク・シリア空爆と争闘戦
米・欧が資源強奪の侵略戦争
中東大動乱と世界戦争の危機
米帝のイラク・シリア空爆は、中東全域の大動乱と世界戦争に直結しかねない恐るべき情勢をもたらしている。米欧帝国主義諸国によるこの新たな侵略戦争は、イスラエルのガザ地区でのパレスチナ人虐殺戦争や、米帝のイラン侵略戦争策動などと一体化し、世界戦争へ発展しようとしている。ウクライナをめぐる争闘戦がついに帝国主義諸国とロシアのウクライナ争奪戦争へ発展しつつある中で、中東の大動乱情勢への突入は世界戦争の危機を一挙に成熟させている。
「有志連合」の大規模空爆は人民の大虐殺
米帝は「イスラム国」(IS)の壊滅を絶叫しながら、英、仏、独などの帝国主義諸国と中東の反動王政諸国5カ国(サウジアラビア、ヨルダン、カタール、アラブ首長国連邦、バーレーン)を「有志連合」なるものに組織し、9月22日、ついにシリア領土においてISへの大規模空爆に踏み切った。空爆は14回にわたって実施され、イラク空爆で1カ月間に投下された爆弾と同量の爆弾が投下された。トマホークミサイル47発も発射された。この空爆には湾岸の反動王政諸国5カ国の空軍も参加した。その後シリア空爆は連日行われ、9月30日にはイギリスも空爆に参加した。
他方イラクでの空爆も強化され、フランス、カナダ、オーストラリア、ベルギー、オランダ、デンマークなどが空爆に参加している。
マスコミではほとんど報道されていないが、10月初めまでに両国で行われた310回の空爆で多数のイラクとシリアの人民が殺されている。米帝はこの戦争が新たな大虐殺戦争であると明確に認識した上で、あえて両国への空爆に踏み込んだのだ。
だが、イラク・シリア空爆の強行は、米帝の強さを示すものではけっしてない。それはむしろ、米帝の追い詰められた末の絶望的なあがきに他ならない。一方で03年以降のイラク侵略戦争の敗北の結果としてイラクからの撤退を余儀なくされ、他方では世界大恐慌の爆発とその激化・深化によって、今や米帝の中東支配・世界支配は決定的に崩壊しつつあるのだ。
中東支配崩壊にあえぐ米帝の絶望的策動
何より米帝は、イラクの石油労働者の石油民営化阻止闘争を始めとする労働者人民の抵抗闘争に追い詰められ、命からがらイラクから逃走した。米軍撤退後もイラク支配を継続するための苦肉の策として、米帝はかいらい政権を樹立した。だがシーア派主導のかいらい政権は、シーア派支配階級の利益のみを追求し、スンニ派抑圧政策を継続的に強化することによって宗派間対立を激化させてしまった。このため、ISがイラク政府に対する不満と怒りをもつスンニ派住民や部族、旧フセイン政権派との共闘態勢づくりの工作を進めた上で、6月10日にシリアからイラクに侵攻すると、包囲・分断されたイラク政府軍はもろくも総敗走し、政府は崩壊寸前に追い詰められてしまった。イラク北部の主要都市モスルがISによって制圧され、首都バグダッドも包囲されてしまった。
さらに米系メジャーを始めとする国際石油資本がクルド自治政府から得た有利な条件下で開発に当たっていた北部の油田地帯もISの制圧下に置かれそうになった。こうした事態に米帝は驚愕(きょうがく)した。この現実をそのまま放置すれば、ISはシリアとイラクの大部分を制圧するだけでなく、中東の他の産油国にも勢力を拡大する。そうなれば米帝はイラクの石油支配権を失うだけでなく、帝国主義による戦後の中東石油支配体制そのものが崩壊することは明らかであった。
こうして米帝は、すでに再び中東での大戦争を展開する力など失ってしまっているにもかかわらず、ISによる公開処刑や残虐行為を大宣伝し、「第2、第3の〈9・11〉が再び帝国主義各国で起きる危険がある」と国民の恐怖心をあおり立てながら、イラクへの軍事侵略に踏み切った。
だが、ISは、米帝などの空爆を民衆の中への散開作戦で巧妙にかわしつつ、シリアの根拠地から人員と武器弾薬、兵站(へいたん)物資を補給して基本的に戦闘力を維持した。
そもそもISはシリア内戦においてアサド政権を打倒するための軍事勢力として、米帝やサウジアラビア、トルコなどから武器、資金などの援助を受けて勢力を拡大し、シリアに広大な根拠地を持つ最大の武装勢力であった。したがって、米帝がイラクに侵攻してきたISに打撃を与えるためには、シリアの根拠地を一掃することが絶対に不可欠であった。こうして米帝はシリアのIS根拠地の空爆を決断した。
しかし、イラクでもシリアでも空爆だけでISのようなゲリラ勢力を制圧することはできない。このため、米帝はイラクでは米軍事顧問団によって再訓練されたイラク政府軍とクルド自治区の民兵組織ペシュメルガを陸上部隊として利用している。シリアでの侵略戦争を始めるにあたって米帝は湾岸諸国からの地上軍の動員を狙ったが、結局湾岸諸国には長期にわたる外国での地上戦闘をやりぬける軍隊などは存在しなかった。こうして米帝は地上軍を確保できないまま、シリアへの侵略戦争に踏みきってしまった。
地上軍なしの戦争ではISの勢力をそぎ落とすことができず、米帝はISがトルコとの国境地域で展開している対クルド包囲戦争に歯止めをかけることさえできていない。
英仏独などが新たな権益を狙い割り込む
こうした中で、米支配階級の中から再度地上軍派遣を検討すべきだという強い要求が噴出している。この動きは米帝支配階級のイラク・シリアの現状への激しいあせりを示すとともに、もう一つの狙いがある。すなわち対外的な侵略戦争と排外主義を推進することで、大恐慌情勢に対決して立ち上がりつつある労働者階級の革命的反乱を抑え込もうとしているのだ。この点では、英帝も仏帝も独帝も同様の立場に立っている。
米帝のイラク・シリア侵略戦争に対して、英、仏、独を始めベルギー、オランダ、カナダ、オーストラリア、デンマークなどが有志連合として極めて積極的に参加している。
これらの諸国は、侵略戦争に参加することで、帝国主義としての存亡をかけて、イラクと中東の石油・天然ガスに対する自国の帝国主義的権益を確保しようとしている。各国はこの戦争に参戦することなしには、中東から弾き飛ばされてしまうという危機感に駆られ、競って軍隊をイラクとシリアに派遣している。
この点でもう一つ注目しておくべきことは、ドイツ帝国主義がついに中東への軍事侵略へのアクセルを踏み始めたということだ。独帝はクルド自治区に対する大規模な武器供与と訓練要員の派遣を決定した。これまで武器の輸出先をEU、NATO内に基本的に限定していた独帝が、これまでの規制枠をはずし、しかもイラクという紛争地そのものへの武器供与を行ったのはこれが初めてである。これは独帝が「アメリカがかつてのように警察官としてやりきれなくなったところをドイツが積極的に補うべきだ」といった主張をしながら、極めて激しい争闘戦の観点から軍事的に突出して中東に介入し権益を獲得しようとしていることを示すものだ。
以上のような文脈で見ると、開始されたイラク・シリア侵略戦争が、帝国主義間・大国間の世界市場、世界資源の争奪戦としての本質を持っていることは明らかである。この争奪戦において米帝は、他の大国が弱体化した米帝の中東支配に大きく割り込む危険に直面しており、米帝はこの挑戦にも対処しなければならなくなっている。
こうした状況は、米帝と他の帝国主義との中東をめぐる争闘戦をさらに激化させ、帝国主義間対立をいっそう激化させるであろう。それは世界戦争情勢を決定的に促進する。
全中東諸国に広がる大動乱と人民の怒り
米帝のイラク・シリア侵略戦争は、全中東諸国を例外なく大動乱過程にたたき込んでいる。同じアラブの労働者人民を大虐殺するシリア空爆作戦への反動王政5カ国の参加はこれら諸国の人民の怒りを爆発させ、脆弱(ぜいじゃく)な支配体制を根底から覆(くつがえ)す引き金になるだろう。ISに大量の志願兵が参加しているヨルダンやレバノン、トルコなどのイラク・シリアの周辺諸国や、シリアと国境を接するイスラエルなどでは恒常的な臨戦態勢がとられており、一触即発で戦争に引き込まれる状態にある。
さらにシリア・イラクの内戦に深々と介入しているイランも、米帝や有志連合といつ対立し、激突してもおかしくない状況にある。トルコでは、政府がインジルリク空軍基地の米軍の使用を許可しようとしていること、トルコとの国境地域にあるシリアのコバニのクルド人に対するISの包囲攻撃を黙認したこと、またこの地域の緩衝地帯化・飛行禁止区域化を米帝に提起したことに対して、クルド人労働者人民の怒りが爆発している。
7・1情勢下中東派兵狙う安倍を許すな
安倍は、「日本は米国を含む国際社会の『イスラム国』に対する戦いを支持している」と表明し、イラク・シリア空爆を支持した。その上で「人道支援での資金供与」を行うという形をとって「有志連合」に参加した。さらに10月8日には、日米安保ガイドラインの再改定に向けた中間報告を発表し、従来の「周辺事態」という概念をなくして、東アジアでの戦争はもとより、自衛隊が世界中どこでも米軍とともに出動し武力行使できるよう改定する意向を示した。
まさに7・1集団的自衛権行使の閣議決定以来、日帝は中東を始めとした全世界への自衛隊派兵を狙い、とりわけ石油・天然ガス資源の獲得のために、中東情勢に軍事力をもって介入することを狙っているのだ。
日本の労働者階級にとって、イラクやシリアで帝国主義の侵略戦争と闘っている労働者階級と連帯する道は、日帝の中東侵略戦争参戦を阻止し、安倍打倒の闘いに立ち上がることだ。職場での闘いを基盤として、全世界で爆発しつつあるイラク・シリア侵略戦争反対の反戦運動に立ち上がろう。
〔丹沢望〕