がん増加の否定狙う環境省 専門家会議を弾劾する 被曝による健康被害を隠ぺい

週刊『前進』06頁(2653号04面01)(2014/10/20)


がん増加の否定狙う 環境省専門家会議を弾劾する
 被曝による健康被害を隠ぺい


 福島県の県民健康調査によると、福島県の子どもの甲状腺がんが疑いも含めて104人にのぼっている。到底許せない被曝強制による深刻な事態である。にもかかわらず政府は、県当局や県立医大とともに、国家総ぐるみで被曝による健康被害を押し隠そうと必死になっている。その役回りを担っている極悪の機関の一つが環境省専門家会議だ。本稿では同会議の実態を見ていく。

全国・全世界で核政策進める御用学者が集合

 専門家会議の構成員17人は、これまで国や自治体の委員会や国際機関の委員に就任してきた極悪の人物ばかりだ。
 座長の長瀧重信・長崎大学名誉教授は、放射線影響研究所理事長、国際被ばく医療協会名誉会長を歴任してきた。放射線影響研究所とは、広島・長崎の被爆者を「検査すれども治療せず」と言われた旧ABCC(原爆傷害調査委員会。原爆投下後に米政府が設立)の後継団体で、今なお被爆による健康被害を否定している。3・11直後に県放射線健康リスク管理アドバイザーに就任し、「ミスター100㍉シーベルト」として怒りを買った山下俊一は、長崎大学在学時代からの長瀧の直系の「弟子」だ。
 放射線医学総合研究所理事の明石真言は、原子力規制委員会安心安全チームや県民健康管理調査検討委の委員を務め、今年5月の参議院内閣委で山本太郎議員が内部被曝による人体への影響を質問した際も「現在までの結果ではただちに影響は出ない」と公言した。
 そのほか、内閣府や文科省、原子力規制委、福島県の機関、さらにICRP(国際放射線防護委員会)、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)など国際機関に所属して、全世界で核と原子力政策を推し進めてきた人物ばかりが集められている。

被曝などしていないと結論づけるための会議

 同会議は御用学者のヒアリングを次々行っているが、「中立性」を装うためか、健康被害に危機感を訴える学者らも若干、参考人に呼び、そのたびに委員らが激しい非難と反論を浴びせ、大論争になっている。
 その一部を見てみよう。3月26日の第4回会合では、元国会事故調委員で高木学校の崎山比早子さんが「低線量被曝による晩発障害に関して、しきい値はない」と、政府関係者の〝100㍉シーベルト以下ではリスクはない〟という主張を批判した。これに対して国際医療福祉大学クリニック院長の鈴木元は「統計的に有意に証明できるのは200㍉シーベルト以上」と反論した。
 また崎山さんが「たばこや肥満と、事故によって放出された放射線によるリスクを比べるのはおかしい。胎児や子どもはたばこを吸わない」と述べると、県立医大理事長でICRP委員でもある丹羽太貫は「そういう議論をしてるのではない。お母さんとお父さんが別居してでも避けなければならない線量なのか」と気色ばんだ。7月16日の第8回会合には岡山大学の津田敏秀教授が出席し、甲状腺がん検査の結果を分析して「会津周辺地域を基準に浜通り、中通りの検出数を比較すると、中通りの一部は11倍にのぼる」と述べた。
 それに対して鈴木は「青森、山梨、長崎の三県調査と発生率比を比較したのか」などなどとクレーム。津田教授は「今も被曝が続いている状態において、そういうのんびりしたことを言って安心しても何の意味もない」と反論した。
 すると長瀧が「がんが増えているということがここの委員会の結論になると大変」と本音をもらし、「まだ調査の段階でいきなりこうだと言ってしまうのは早過ぎる。被曝していると決めるためには、被曝しているという事実がなければいけない」と言い張った。同会議があらかじめ〝健康被害は起きていない〟、さらには〝被曝などしていない〟と結論づけるための会議であることをあからさまにした言葉だ。

〝被曝よりストレスが悪影響〟と日本共産党

 同会議には、日本共産党から2010年に初めて日本医師会常任理事に就任した石川広己・千葉県勤労者医療協会理事長も入っている。被曝による健康被害も避難・保養も全否定する日本共産党中央の方針を忠実に貫く石川は、会議でも極悪の働きをしている。
 9月22日の第11回会合では、石川は「子育て中のお母さんがたには放射線ストレスで漠然とした不安が蓄積している。放射線量測定と関係なく不安を持っている」と、ストレスや不安こそ問題だと主張。さらに「文科省の教本が生徒に配布されていないのは残念。学校のところで誤解がないように意識を持ってもらうことが重要」と、文科省副読本まで賛美した。
 環境省が出した「原発事故による放射線の健康影響及びそれを踏まえた住民の健康管理のあり方に係る論点整理等(案)」をめぐる議論では、石川は「論点1『事故による放射線の健康への影響が見込まれる疾患』の中に論点4『健康不安』を入れるべき」と何度も意見した。「放射線の健康への影響の中に、放射線の不安というのが大きく存在する」「具体的に疾病(しっぺい)が出てくるというよりは、日本であまりなかった放射線の健康への影響について大変深い不安がある」
 いずれも〝問題は放射線による健康被害ではなく放射線への不安だ〟、つまり〝放射線被曝よりもストレスのほうが健康に悪影響をおよぼす〟として、放射線と被曝による健康被害を消し去る論理だ。日本共産党中央は、「放射線の影響は、ニコニコ笑ってる人にはきません」と主張した山下俊一ばりに、原発事故による健康被害を完全に否定しているのだ。

怒りを恐れて中間報告出せず

 このように国家総がかりで原発事故による健康被害を抹消しようと必死になっているにもかかわらず、それを押し通すことができないのも現実だ。この会議でも中間報告どころか「論点整理案」だけで議論は乱れて進まず、8月中に中間報告を出すと言われた県民健康調査検討委は9月以降、会合が開かれていない。検討委甲状腺検査評価部会の会合も6月でストップしている。
 小児甲状腺がんが104人にもなる中で、〝原発事故による健康被害はない〟などと打ち出したら、その瞬間に福島と全国の怒りにさらに火がつき、川内原発の再稼働策動が吹き飛ばされることを恐れているのだ。
 「3・11福島」を消し去ろうとする動きは今、支配階級のみならず共産党や社民党、連合を始め既成の運動体の幹部すべてに共通している。福島の現実に肉薄した時に、資本主義体制の根幹を揺るがす闘いに発展せざるを得ないことに恐怖しているのは、既成幹部もまったく同じなのだ。
 だからこそますます今、「3・11福島」をしっかり据え、内部被曝を絶対に許さない反原発運動を大きく広げることが大切だ。福島の子どもたちや原発作業員を始めとする被曝労働の現実に肉薄し、「避難・保養・医療」の原則を貫くふくしま共同診療所を支え発展させよう。川内原発の再稼働阻止・安倍政権打倒へ進もう。
(里中亜樹)

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▼環境省専門家会議 「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」。昨年11月に初会合を行い、今年9月22日までに11回の会合を開いている。

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