TPP交渉 日・米・新興国の対立深刻化 国境を越えた労働者の団結で世界革命―安倍打倒へ闘おう
TPP交渉 日・米・新興国の対立深刻化
国境を越えた労働者の団結で世界革命―安倍打倒へ闘おう
世界大恐慌の激化・深化の中で、帝国主義間・大国間の争闘戦が軍事化・戦争化し、同時に世界経済の分裂化・ブロック化が急激に進行している。この間のTPP(環太平洋経済連携協定)をめぐる日米激突はその象徴だ。国境を越えて団結した労働者階級の力で、命脈の尽きた帝国主義・新自由主義を今こそ打倒し、プロレタリア世界革命へ進撃しよう。
「日本除外」を求め下院議員らが書簡
「日本をTPPから締め出せ」――7月30日、米議会下院の超党派議員団が、日本やカナダなど「市場開放に消極的な国」を除外してTPPを早期妥結に持ち込むよう求める異例の書簡をオバマ大統領に送った。書簡は下院議員の約3割にあたる140人が署名し、特に日本について「前例のない、受け入れられない提案をしている」と指摘し、他国との交渉にもダメージを与えていると強く非難した。牛・豚肉や乳製品の輸入関税を始めとする日米関税協議が難航し、このままではTPPそのものが空中分解しかねないという激しい危機感に突き動かされたものだ。
これを受けて8月5、6日に行われた日米実務者協議は、TPPの成否をかけて何としても日米合意へこぎつけることを目標に、牛・豚肉の関税と輸入制限措置(輸入が急増した際に関税を元に戻すこと=セーフガード)を中心に踏み込んだ議論を行った。だが、結果は合意どころかまったく交渉の進展を見ず、むしろ日米間の対立を一層浮き彫りにすることとなった。日本の首席交渉官代理・大江博は「日米協議が終わらなければ、ほかの国との交渉も終わらない。9、10月も集中的に協議したい」と焦りをあらわにした。
この日米対立の激化と並行して、米帝の露骨な新自由主義的要求に対するベトナムやマレーシアなどの新興国側の反発も一層強まっている。最大の争点の一つは、新薬特許や著作権の保護をめぐる「知的財産」分野だ。米帝は製薬会社の独占的利益を確保するために特許保護の長期化を要求し、特許切れの安価な「ジェネリック医薬品(後発薬)」をこれまで通り利用することを求める新興国側に圧力をかけている。これに対し、医薬品の過半数を後発薬が占めるマレーシアは、がん患者向けの薬品の価格が2〜5倍に高騰する、中には55倍に達するものもあると猛反発している。医療関係者からは「人命がかかった問題だ」「知的財産保護の強化は米国の製薬業界を利するだけだ」と激しい抗議の声が上がっている。
国有企業の優遇措置の廃止(事実上の民営化)を含む「競争政策」をめぐっては、7月5〜12日に行われた首席交渉官会合の場でも集中的に論議されたが、国有企業を多く抱えるベトナムなどが米帝の要求を強く拒否し、交渉進展の見通しは立たなくなっている。
こうした中で、交渉各国は9月中に首席交渉官会合、10月に閣僚会合を予定しているが、日米協議が進展しなければ11月APEC(アジア太平洋経済協力会議)での大筋合意のシナリオは崩壊、もはや妥結のめどは完全に立たなくなる。
そもそもTPPは、米帝オバマが大恐慌下での生き残りをかけて進めてきたアジア太平洋戦略の最大の目玉であり、13年末までの妥結をめざして交渉が続いてきた。だが、一方での日帝・安倍の対米対抗的な登場と日米争闘戦の激化、他方での新自由主義に対する全世界の労働者人民の怒りと闘いの高まりの中で、目標としてきた昨年内の妥結が破産した。今年に入っても交渉は難航を極め、TPPは決裂の危機に瀕(ひん)している。
こうした中で、米帝は「日本を除外して妥結」することをちらつかせ、日帝に対して激しい揺さぶりをかけているのだ。
世界経済の分裂・ブロック化が進行
今次世界大恐慌は、ブルジョア経済学者やマスコミが何と言おうと、絶対に「解決」も「回復」もできず、むしろその本格的な激化・深化はこれからである。その背景には、大恐慌下での世界経済の果てしない分裂化・ブロック化がある。TPP交渉での日米争闘戦の激化は、まさにそのことを象徴する事態だ。
7月31日、WTO(世界貿易機関)の主催するドーハ・ラウンド(世界153カ国が参加する多角的通商交渉)の貿易円滑化協定の採択がインドなどの反対で頓挫した。これにより、経済効果1兆㌦が宙に浮いたと言われる。ドーハ・ラウンドは、リーマン・ショック直前の08年7月に米帝と新興国との対立によって決裂して以後、何度か交渉再開が画策されてきたが、今や完全にご破算となった。
重要なことは、08年リーマン・ショック以来の世界大恐慌の本格化と時を同じくしてWTO体制が急速に崩壊し、これに代わってFTA(自由貿易協定)の締結競争が一気に激化し、世界経済の分裂化・ブロック化が急速に進行したことだ。FTAは現在、検討中の案件も含めて世界で380件を超える。米帝が仕掛けたTPPこそ、その中で最大規模の広域FTAである。もはや世界経済は、かつてのような擬制的統一性を回復することはできず、果てしない分裂・対立と争闘戦の激化へ突き進む以外になくなっているのだ。
他方で過剰資本・過剰生産力の問題は極めて深刻である。IMFの統計によっても、日米欧など先進36カ国の潜在的な供給力と実際の需要の差を示す「需給ギャップ」は、14年はGDP比2・2%に相当する1・1兆㌦(約110兆円)の需要不足となり、中でもアメリカは約6000億㌦の需要不足、ユーロ圏も南欧を中心に需要不足が続くという。これによる全世界的なデフレ圧力のもとで「各国中央銀行による金融緩和の長期化は避けられない情勢」(5・10付日経新聞)だ。
14日発表のユーロ圏の4〜6月期の実質域内総生産(GDP)は、年率換算で0・2%増のゼロ成長となり、ドイツとイタリアは0・2%減のマイナス成長となった。今や低成長を背景に日米欧で長期金利低下の連鎖が広がり、ドイツは史上初めて1%を割った。
こうした中で、FRB(米連邦準備制度理事会)のイエレン議長は「10月に量的緩和を終了するが、事実上のゼロ金利政策は、相当の期間は続ける」(8月22日の講演)と表明せざるを得なくなった。さらにFRBは、膨大な「カネ余り」のもとでバブルが発生していることを懸念し、議会に提出した報告書で「比較的小規模な企業に株価が大幅に割高になっているものがある」と異例の指摘を行った。加えてイエレン議長は、低所得者向けの「サブプライム自動車ローン」の増加にも言及した。「緩やかな回復基調」と報じられる米経済の実態はバブルの再現そのものであり、大失業と貧困の現実は何も解決していないのだ。
まさに、「大恐慌は、過剰資本・過剰生産力の問題を基底にしつつ、それが世界経済の分裂化・ブロック化をも促進し、この両者が交差し結合する時にこそ、真に最大最悪の奈落へと転落していくのである」(本紙2643号城戸論文)。
戦争と軍需産業に活路を求める安倍
こうした大恐慌の激化・深化と、他方での新自由主義の破綻・崩壊のもとで、もっとも深刻な体制的危機に見舞われているのが日帝・安倍である。
安倍を7・1閣議決定の強行へと突き動かしたものは、大恐慌下での帝国主義間・大国間争闘戦の軍事化・戦争化という情勢であり、争闘戦からの脱落にあえぐ「最弱の環」=日帝の崩壊的危機にほかならない。だから安倍は、この7・1閣議決定のもとで軍事費の大膨張・大軍拡へと踏み出し、軍需産業の育成と武器輸出・武器開発へとのめり込んでいるのだ。
防衛省は2015年度予算の概算要求で過去最大規模となる5兆545億円を計上する。防衛関係費は安倍政権のもとで13年度以来増額に転じ、14年度も4兆8848億円を計上したが、7・1情勢下で一挙に増額される。閣議決定の直後に、防衛省幹部が「次のステップは防衛費増大だ」と語ったとおりだ。
その内実は国産哨戒機「P1」20機、オスプレイ5機、水陸両用車、イージス艦、無人偵察機グローバルホーク3機、次世代戦闘機「F35」6機などすさまじいエスカレーションであり、いずれも「離島防衛」=中国との軍事衝突を露骨に意識したものだ。川崎重工が生産するP1哨戒機については、18年度までに23機もの購入予定を中期防衛力整備計画(中期防)に盛り込んでいる。
さらに安倍は、新幹線や原発などのパッケージ輸出と並んで、武器の全面的な共同開発と海外輸出を成長戦略の柱に据えた。だが、武器輸出三原則の撤廃にもかかわらず、世界の兵器産業への日帝資本の進出はけっして容易ではない。安倍政権が最大の目玉とみなしたF35戦闘機の製造・輸出に国内企業を参画させる政府プロジェクトについても、最大手の三菱重工が当面参画を見送ることがわかった。防衛省からより巨額の援助を得られない限り、三菱重工は現時点で設備投資に踏み切れない、というのがその理由だ。
こうした動きを受けて、安倍政権・防衛省が軍需産業への一層手厚い保護・援助へと動くことは必至である。それは同時に、製造業を始めとする現場労働者への大合理化攻撃となっていく。
7・1と対決し今秋決戦へ
まさに、7・1は「戦争をする」ことを前提に経済と社会をまるごと改造していく攻撃であり、その核心は労働現場を国家・資本が制圧していくことにある。4大産別をはじめとするあらゆる産別・職場において、この攻撃との全面対決がすべての労働者・労働組合に問われる情勢だ。
こうした階級攻防のただ中において、闘う労働組合のもとに団結した労働者にこそ戦争を止める力があること、国鉄決戦を基軸とする階級的労働運動の拠点建設と国際連帯の発展こそ、戦争を阻止し社会を変革する唯一の道であることを、8・17大集会は満天下に明らかにした。
今や「戦争か革命か」の歴史選択をかけた階級決戦の時代が到来した。この情勢は、「私たちにすべてを根本から見直し、自らをラジカルにつくり上げていくことを求めている」(夏季特別号政治局論文)のだ。
2010年代中期階級決戦の壮大な勝利に向けて、9・11郡山外注化阻止闘争を突破口とする今秋決戦へ胸を躍らせて総決起しよう。国鉄解雇撤回・最高裁勝利判決に向け、10万筆署名運動を全力で推進しよう。9〜10月全国各地区での労働者集会と10・21国際反戦デー闘争の成功をかちとり、11・2労働者集会1万人結集へ攻め上ろう!
〔水樹 豊〕