〈寄稿〉 刑事司法大改悪許すな 新捜査手法反対連絡会議呼びかけ人・弁護士 西村正治

週刊『前進』06頁(2640号06面02)(2014/07/14)


〈寄稿〉
 刑事司法大改悪許すな
 新捜査手法反対連絡会議呼びかけ人・弁護士 西村正治


安倍の「戦時司法」を阻む労働者・民衆の大運動を

 7月9日、谷垣法務大臣の諮問機関「法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会」は、「新たな刑事司法制度の構築」と銘打った最終とりまとめを全員一致で採択した。
 そこに示された内容は、まさに戦争体制下における刑事司法の大改悪である。集団的自衛権行使容認の閣議決定を強行し、戦争準備態勢に突入した安倍政権の治安強化策=戦時司法体制構築の一環であり、「テロ・組織的犯罪対策」の名のもとに、闘う労働組合や民衆の団結を破壊するための武器の決定的強化にほかならない。それは、特定秘密保護法強行、共謀罪国会提出、カンパ禁止法、テロ資金凍結法制定策動などと一体の攻撃なのだ。

盗聴対象の拡大

 第一に、盗聴の対象犯罪の大幅な拡大である。
 現行法では薬物、銃器など4罪種に限定されていたのを、殺人、放火、傷害、逮捕・監禁、窃盗、強盗、詐欺、恐喝などの一般的な刑法犯や爆発物取締罰則、児童ポルノ関連犯罪などに大幅に拡大する。
 「役割分担に従って行動する人の結合体」という組織性要件が加えられたとして日弁連執行部は賛成するが、「共犯者」がいる可能性があればすべてあてはまるものであり、何の歯止めにもなりえない。
 盗聴は、事件が起こってから発動される捜査手法でなく、本質として予防盗聴である。「犯罪」のおそれがあると見なした対象に対し日常活動を継続的に監視するのである。闘う労働運動・政治組織が明確にターゲットなのだ。
 さらに今回の改悪で、通信事業者の立ち会いもなしに警察だけで好きな時に好きなように盗聴できる仕組みにされた。

司法取引の導入

 第二に、司法取引の導入である。
 司法取引は、自分が助かるために他人を売り渡すことだ。他人の「犯罪」事実について、取り調べや法廷で供述したり、証拠物を差し出すことの見返りとして、検察官が不起訴や軽い求刑などを行う約束を、被疑者・被告人と正式に文書で交わすという制度である。検察官の方から免責を与えて証言を強制する刑事免責制度もある。
 一方、自分の犯罪を明かして減軽される制度は削除され、他人売り渡しに特化された。司法取引が人びとの団結を破壊し冤罪を生む〝他人売り渡し〟の制度であることがより鮮明になったのだ。
 第三に、証人保護名目の「証人隠し」制度である。

「証人隠し」制度

 証人が氏名や住居を知られたら自由に証言できないと言明すれば、法廷での証人尋問やその訴訟の記録上でもすべて匿名にするばかりか、そもそも被告人や弁護人にすら住居氏名を開示しない措置を認める。
 加えて、ビデオリンクの拡大で、証人を別の場所に呼び出し、そこからビデオリンク方式の尋問ができるようにもなるのである。
 証人は、被害者に限らないし民間人にも限らない。潜入捜査官が身分を隠したまま匿名証言し、身元を明かさないまま隠れ去ることも十分可能となる。匿名証人の実態を暴くこともできないし、追跡調査もできないのだ。匿名証人の秘匿情報を暴こうとする弁護人には、懲戒請求も待っている。まさにデッチあげの暗黒裁判を不可避にするのだ。

可視化をテコに

  第四に、部分的可視化が捜査側の一方的な武器になってしまうことである。
 録音・録画が義務づけられる対象犯罪が、わずか2%にすぎない裁判員裁判対象事件と年間100件程度といわれる検察独自捜査事件だけの最小限に削られた。それも、録音・録画をしたら十分な供述をとれないと(捜査官が)認めた時などは例外で録音・録画しなくてもいいというから、抜け道だらけである。
 しかも、朝から晩まで連日取り調べをやって最後に自白調書を取ったという場合、その最後の取り調べの録音・録画だけしか法廷で問題にならない仕組みなのである。日弁連が喧伝(けんでん)してきた「違法捜査の抑止」にまったく役に立たない。
 これに加えて最高検は、検察官が立証に必要と考える事件を「試行」として独自に録音録画し、立証に使うことを宣言している。「違法捜査の抑止」とはまったく逆に、違法捜査を促進する可視化になってしまったのである。

室内盗聴も狙う

 第五に、「最終とりまとめ」では、「今後の課題」としていったん引っ込んだはずの室内盗聴(会話傍受)や証人保護プログラム、被告人の証人適格などについて「必要に応じて、さらに検討を行う」とされた。今後、室内盗聴が復活するための仕組みが巧妙に仕掛けられている。
 このように最終とりまとめ案には評価しうるところなどみじんもない。徹頭徹尾許し難い。
 だが、とりまとめは全員一致で採択された。日弁連執行部は、可視化が一部実現するので「総合的に見て一定の前進はあると考えて」これに賛成した。とてつもない裏切りというほかない。
 しかし、この執行部の方針には、52の単位会のうち23もの単位会が公然と反対を表明した。1300を超える会員の声も上がっている。このような執行部を打倒する弁護士の闘いが大きく動き出しているのだ。
 政府は、9月に開く法制審の総会で答申を正式決定し、次の通常国会で改悪法案を提出しようとしている。集団的自衛権行使の関連法案阻止、秘密保護法廃止、共謀罪反対と並んで、盗聴と新捜査手法に反対する労働者・民衆の大きなうねりをつくり出し、なんとしても国会提出を阻止しよう。

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