「法曹有資格者」制度の狙い 武内更一弁護士が語る 企業や行政が雇う専門職海外展開で侵略の先兵化

週刊『前進』06頁(2638号06面02)(2014/06/30)


「法曹有資格者」制度の狙い
 武内更一弁護士が語る
 企業や行政が雇う専門職海外展開で侵略の先兵化


(写真 武内更一さん 憲法と人権の日弁連をめざす会事務局長)


 新たな攻撃として出されている「法曹有資格者」制度の狙いと背景について、5月末の日弁連総会で執行部を追及する闘いの先頭に立った武内更一弁護士に語ってもらった。(編集局)

推進に手貸す日弁連執行部を総会で追及

 いま、「法曹有資格者」という新たな法律実務家の資格制度が重要な問題になっています。「法曹有資格者」とは、司法試験に合格しただけで企業や国、地方公共団体に雇用され、法律事務を専門的に取り扱う人たちのことです。そういう法律専門職を政府と財界がつくりだそうとしています。
 彼らは司法修習(司法試験合格後の実務研修)を受けず、弁護士会にも登録しない。弁護士法1条は「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」と定めていますが、その適用も受けない。雇われた企業の利益、国や行政の施策の実現を至上命題にして、法律の知識や技術を活用するわけです。これは日弁連の理念とは全然、適合しない。ある意味で弁護士と対立する存在です。にもかかわらず、日弁連は「法曹有資格者」の養成に協力することを法務省に約束しているのです。
 日弁連定期総会が5月30日に仙台で開かれました。私たちは総会の場でこの問題を取り上げました。執行部は真実を隠しながら「法律サービス展開本部」という名称で4580万円も予算をつけて、「法曹有資格者」の研修をやろうとしているのです。私たちは、「これは何のために使うのか?」と追及しました。日弁連執行部は真正面から答えられない。会員に説明しない。そこで私は、法務省作成のチャートを示して追及し、「これは日弁連つぶしだ。それに会員の金を使うことは絶対反対だ」と訴えました。
 私たちの訴えを聞いて、私たちのグループの数倍の弁護士が議場で反対に挙手しました。各地の弁護士会の執行部がはせ参じている総会の場で、これだけの反対の声が上がったことは大きな意味があったと思います。

財界の狙いはコスト削減と日弁連つぶし

 政府や財界は何を狙っているのか? もともと「司法改革」は1990年代半ばに経済界が言い出したことです。経済同友会、次に経団連です。これを受けて政府は1999年7月に「司法制度改革審議会」を設置しました。中心になった議論は弁護士の大幅増員です。それによって弁護士を競争させ、弁護士の費用を下げることと、弁護士の企業や行政への従属化を狙ったのです。それが政治改革、行政改革、その最後のかなめとされた新自由主義的な「司法改革」の狙いだったのです。
 以来、十数年、国は司法試験合格者をどんどん増やしてきました。でも、私たちが「司法改革」の狙いを暴いて、「弁護士増員反対」の闘いを粘り強く続け、これに多くの弁護士が加わったこともあって、毎年3千人という増員政策は予定通りには全然進んでいません。
 また弁護士大量生産システムとして法科大学院制度が創設されましたが、司法修習が給費制から無給になったこともあり、法科大学院を出て司法修習を経て弁護士になるまでに数百万円から1千万円ぐらいの金がかかります。そういう多額の借金を背負って弁護士を始めなければならない。それで法科大学院の志望者自体が当初の1割ぐらい(約4千人)にまで激減しました。つぶれるところもどんどん出ています。
 しかも、やはり独立した専門職として仕事がしたいと考えて弁護士になる人が多いので、国や日弁連執行部が考えたように企業や行政に入る弁護士が激増したわけでもないのです。今そういう弁護士は全国で600〜700人ぐらいいると言われていますが、弁護士の総数は3万5千人ですから、それほど多くありません。
 こうした状況を何とかしなければならない、危機に陥っている法科大学院も何とか存続させたい――そういうものとして出されてきたのが「法曹有資格者」制度です。

経済同友会の新提言で「予備試験」の廃止も

 経済同友会が5月9日に「社会のニーズに質・量の両面から応える法曹の育成を」という新たな提言を出しました。これは財界が狙っていた法曹養成制度が思い通りに進んでいない現状を総括して、あらためて彼らの狙いを打ち出したものです。
 新たな提言では、〝司法試験合格者年間3千人目標を堅持し、そのために司法試験をもっと簡単にしろ〟とか、〝司法研修所は裁判官と検察官の養成機関に特化すればいい〟と言っています。在野の法律家には司法修習もいらないということです。
 彼らは企業に入れば労働者に対立して企業の利益のために働き、自治体・行政に入れば公営住宅家賃や税金の取り立て、公立病院の治療費の取り立てなどの業務をすることを期待されています。
 また、経済同友会は、法科大学院制度の例外として設けられた「予備試験」制度の廃止まで提言しました。多くの学費と年月を要する法科大学院を避けて司法試験を受験できるこの予備試験に、今では法曹をめざす人たちが多く詰めかけ、「例外」と「本来」が逆転しています。このままでは法科大学院制度は確実に崩壊するという深刻な危機に直面して、ついに財界の本音が出てきました。
 さらに「法曹有資格者」の活動領域として「海外展開事業」が強調されています。企業の進出先の国に派遣され、現地の労働者から労働条件などのさまざまな不満が出れば、企業の立場に立って労働者と対峙する役割です。日本国家や企業による侵略の先兵にほかなりません。戦前の「満州国の法務官は弁護士から採用せよ」という話とそっくりです。
 経済界は法律家をまさに企業のグローバル化、海外侵略のツールとして活用しようと考えているのです。国と企業が国際競争に勝ちぬくために、すべての「資源」を動員するという考え方です。それが、アメリカなどの企業と競争していくためには必要だと考えているわけです。
 企業や行政に雇われる「法曹有資格者」は、正規職とは限りません。たとえば2年契約で更新し、都合のいいところでクビを切るという意図が見えます。財界は、このようにしてコストを下げ、企業・行政の目的を忠実に実現する法律家をたくさんつくりたいのです。
 こういう「法曹有資格者」が増えていくことは、基本的人権を擁護し弱い者の立場から大きな権力と対決する弁護士の力を削り、存在すら危うくするものです。弁護士会として一致して反対しなければいけない大問題です。

労働者隊列に加わり安倍の暴走を止める

 「集団的自衛権」の問題で安倍首相が「日本人を守る」と言っていますが、その前提には日本企業の海外展開があります。日本企業を守るために軍隊が海外に出ていくということです。法律の専門家もそれに動員しようというわけです。
 安倍政権がやっていることを「解釈改憲」と言うのは誤りです。憲法なんか関係ない、憲法を無視すると宣言しているようなものです。これが「ナチスの手法に学ぶ」ということなのでしょう。憲法を公然と無視する政権が登場し、それが暴走し始めている。国会は「おしゃべり小屋」にすぎません。この時にこそ私たち在野の弁護士はそれを止める使命があると思います。
 安倍政権は現憲法の意味を十分承知の上で、あえて無視して進んでいるのです。だから、憲法の意味を抽象的に説いたり、「立憲主義」を盾にして反対しているだけでは、この暴走は止められません。労働者人民の後に引けない闘いが絶対に必要です。その隊列に私たち弁護士もともに加わり、力を合わせて安倍の暴走を止めたいと思います。

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●「司法改革」の破綻と「法曹有資格者」制度の狙い/武内更一●改憲とメディア支配/鈴木達夫
■発行/憲法と人権の日弁連をめざす会

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