岡山大病院 大資本に売却狙う構想発覚 民営化・医療破壊許すな

週刊『前進』06頁(2638号03面03)(2014/06/30)


岡山大病院
 大資本に売却狙う構想発覚
 民営化・医療破壊許すな


 大学病院を大学本体から切り離し、持ち株会社を設立して大資本に売り渡そうというとんでもない計画が、岡山大学において現場には一切秘密で進められていた。全国の大学病院のみならず地域の基幹病院から中小の医療機関、果ては介護・福祉事業所まで一切を、安倍政権の新自由主義攻撃としての新成長戦略による医療の民営化攻撃のもとで大再編する。この構想を全面的に暴露し、闘う労働組合をよみがえらせて絶対反対で闘うことを呼びかける。全員解雇・10割非正規職化、安全破壊、医療・福祉の根本的解体に突き進む安倍政権を倒そう。

県内医療施設の統廃合策す「持ち株会社」構想

 上の図は、岡山大学の森田潔学長が3月末の第7回産業競争力会議(議長・安倍)に「岡山大学メディカルセンター構想の概要」と題して提出したものだ(抜粋)。そこでは、次のような巨大な医療・福祉事業体の構想が出されている。
 ①岡山大学病院を大学本体から切り離して別法人化し、これを中核に事業全体の管理運営機能と資金確保機能を担う岡山大学メディカルセンターという持ち株会社を設立する。②この持ち株会社のもとに、岡大病院のほか日赤、済生会、国立病院、労災病院、市民病院など県内の基幹病院を統合。③その下に地域の中小病院や診療所をぶら下げる。④さらに医療部門だけでなく介護・福祉事業をもその傘下に引き入れる。
 同様の構想は広島大学でも検討が始まっていると言われている。医師派遣を通じて一定の系列化が前提にある地方の大学病院を突破口に、全国的に進められようとしていることは疑いない。
 6月18日、国会で19の法律を一括して大改悪する「地域・医療総合推進法」が自民・公明の強行採決で成立した。これは医療・介護保険制度を大再編し、資本の利潤追求の場にする狙いをもつものだが、岡大メディカルセンター構想は完全にこれと一体の攻撃である。
 これは、今年1月に安倍首相がダボス会議でぶち上げた「非営利型ホールディングカンパニー方式による医療・福祉の大規模再編」の具体化そのものである。これに「一番乗りの利権」をめざして真っ先に手を上げたのが岡山大学だ。
 安倍の成長戦略は「健康・医療分野にかかわる産業を戦略産業として育成し、わが国経済の成長に寄与する」と宣言し、医療の徹底した民営化、営利化を進めてきた。さらに6月24日に閣議決定された新成長戦略では、「医療の岩盤規制を打破する」と掲げ、混合診療の全面解禁とともに「持ち株会社方式による医療・福祉の大規模再編」が正式に盛り込まれた。
 現在の日本の医療は、「非営利」を一応の原則としている。「医療でカネもうけをしてはならない」「平等に保険医療が受けられる」ということが建前だ。1980年代以降、急激に進んだ新自由主義のもとで解体されつつあるとはいえ、それはまだ残っている。
 ところが、リーマンショック以降の世界的な大不況のもとで、過剰資本の投資先として解禁されてこなかった「最後の聖域」として、医療分野が新自由主義にとって絶好のターゲットとなった。投資先を求める過剰資本が、寄ってたかって医療・福祉を食い荒らしカネもうけをたくらむ──それこそが安倍成長戦略の最大の核心点であり、その具体化として打ち出されたのが「非営利型ホールディングカンパニー方式」による医療の大規模再編なのである。

患者を選別し切り捨て医療労働者に矛盾集中

 いくら「非営利」という飾りを付けても、持ち株会社方式である以上、民間のカネの受け皿であることが第一の目的となる。当然もうけを出すことが絶対的条件だ。そうでなければ誰も投資などしない。
 全米で350を超える病院を傘下に置く巨大病院チェーンHCAでは、経済効率優先の経営方針のもとで真っ先に正規職の看護師が減らされ、非正規職に置き換えられた。「無駄にカネがかかる」とみなされた患者には専属の看護師が配置され、濃厚な医療行為をしない方向に誘導する役割を担わされた。「ホームドクター」(かかりつけ医)がその実働隊となったという。それが岡山大学長作成の前掲図の説明文では「(地域住民にとってのメリット)最適な医療サービスの提供、医療過疎の解消」などと美化され、その正体は押し隠されている。
 また、新自由主義の攻撃が吹き荒れ始めた80年代中盤から95年までのアメリカで3645の病院を対象にした調査によると、非営利病院が株式会社病院に変わると平均死亡率が1・5倍に増加したという。事故が多発するのも当たり前だ。安全のための投資は直接の利潤を生まない。だから真っ先に切り捨てられる。仮に事故が起きても、その責任を現場の医師や看護師、医療労働者に押し付け、経営者はまったく責任を取らない。「持ち株会社」方式でやろうとしているのはそういうことだ。その実態は、安全崩壊と事故の責任まで子会社や関連会社の労働者に丸投げする今日のJR各社の姿を見れば、よりはっきりする。

評価制度使い賃下げ・解雇

 岡山大学長構想は、「医療従事者にとってのメリット」として「キャリア開発機会向上、適正な評価に基づく報酬」などと言っている。だが、基幹病院から介護事業所まで傘下におさめたこの巨大事業体の中で、医療労働者は徹底した競争にさらされる。評価制度をますます全面的に適用し、カネばかりかかる患者を在宅に追いやって病院にもうけをもたらす者だけが評価されていく。「患者さんのために」などと言う者は、そんな患者と一緒に切り捨てられていく。それがこの評価制度の正体なのだ。
 そして5年前に岡大病院の新人看護師が「あなたは先進医療を担う大学病院には向いていない」と言われ雇い止め解雇されたような事例がますます全面化される。傘下の病院・介護事業所を出向・転籍でたらい回しにして、揚げ句の果てに解雇するのが「キャリア開発機会向上」の本質だ。

全員解雇・10割非正規化と安全破壊の安倍政権

 社会保険病院、厚生年金病院など57病院を統合し4月に発足した独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)の尾身茂理事長は、新法人への移行に際しての職員の雇用について、次のように国鉄分割・民営化型の露骨な全員解雇を行うことを宣言していた。
 「新機構の職員としてふさわしくない者は例外とするということです。1番目は新機構のミッションに賛同しない者、2番目は新機構のミッションの実現に支障をきたすと判断される者」(厚生労働省「地域医療機能推進機構の法人制度に関する検討会」、12年10月)
 国公立病院の民営化、統廃合、そして岡山大学が先鞭(せんべん)を付けようとしている「非営利持ち株会社」方式による医療・福祉の大再編では、こうした全員解雇・10割非正規化攻撃がもっと激しく展開される。
 こうした攻撃は戦後階級闘争の獲得物を根本から破壊し、労働者階級を生きていけない状態にたたき込み、侵略戦争に駆り立てていく攻撃と一体のものである。だからこの攻撃は、団結の解体、労働組合の解体と御用組合化・産業報国会化なしには貫徹できないものとしてある。
 大資本への医療・福祉の売り渡しをなんとしても止めなければならない。こんな構想が現実化したら、医療も福祉も根こそぎ破壊され、労働者は過労死するまで働かされる。
 そして、止める方法はある。当たり前の闘う労働組合をよみがえらせることだ。現場の労働者が絶対反対で団結しているままでは、いっさい事が進まないような力関係をつくることだ。
 大学病院売り渡し構想の暴露に、岡山大学の職場では大きな反響が巻き起こっている。既成労働組合執行部は、現場の怒りの爆発を抑えようと、7割以上の組合員から選挙権を奪う前代未聞の暴挙に手を染めた(詳報次号)。だがわれわれは現場の団結に根ざし、本物の執行部として断固登場する。闘う労働組合をよみがえらせ、2010年代中期階級決戦の中軸に医療・福祉労働者の隊列を登場させよう。医療・福祉の大再編、民営化を狙う安倍政権を打倒しよう。
(岡山大学医学部職員組合 矢田範夫)
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