崩壊するJR体制⑦ 行き詰まった新幹線輸出戦略 高速鉄道計画は次々「凍結」にリニアの売り込みも進展せず 安倍「成長戦略」早くも大破産

週刊『前進』06頁(2638号02面04)(2014/06/30)


崩壊するJR体制⑦
 行き詰まった新幹線輸出戦略
 高速鉄道計画は次々「凍結」にリニアの売り込みも進展せず
 安倍「成長戦略」早くも大破産


 安倍政権が「成長戦略」の柱に掲げてきた鉄道のパッケージ輸出は、デッドロックにぶち当たった。安倍の盟友・JR東海名誉会長の葛西敬之は「(日本の新幹線を)高速鉄道の国際標準に」とうそぶくが、ことはそう甘くはない。日本の新幹線技術は、山がちな島国という特殊な条件で高速列車を走らせるために形成されてきた面がある。それを「国際標準」とすることには無理がある。「国際標準」の位置にあるのは今やフランスやドイツの高速鉄道だ。
 韓国高速鉄道KTXはフランスの技術を基盤としている。台湾新幹線も日本とドイツのシステムの混在型だ。JR東日本と川崎重工による中国への新幹線技術供与は、仏独の技術も取り込んでスターリン主義的な安全無視の「超高速」運転を強行し、低コストを武器に世界市場を席巻する競争相手を生んでしまった。
 葛西自身、既存の新幹線の輸出は成功しないと考えていたふしがある。鉄道輸出のためにJR東日本やJR西日本などが11年11月に共同で設立した「日本コンサルタンツ」にJR東海は一銭も出資せず、リニア新幹線をアメリカに売り込むための独自行動に熱中した。だが、JRが分裂したままでは鉄道海外輸出など成り立たない。だから葛西も態度変更を迫られた。今年3月、東日本、東海、西日本、九州のJR4社は「国際高速鉄道協会」を設立、安倍のトップセールスで新幹線輸出に乗り出す態勢を整えた。だが、その矢先に破綻は突き出された。

腐敗と汚職を輸出する日帝

 日帝が新幹線の輸出先として期待していたのは、いわゆる新興諸国だ。だが新自由主義が破綻する中、これらの国々は高速鉄道を建設する余裕を失った。それどころかブラジルのゼネストやタイの政変は、高速鉄道建設を強行すれば体制自体が吹っ飛ぶ情勢に入ったことを示している。
 日本の新幹線輸出先として有望視されていたブラジルは、建設費を安く見積もる政府と各国資本の利害が対立し、11年7月に行われた入札に応じる企業はひとつもなく、それ以降も数度にわたり入札は延期されたままだ。そこにゼネストが激発し、ブラジル政府は高速鉄道建設を棚上げせざるを得なくなった。
 ベトナムには、民主党鳩山政権がトップセールスで新幹線を売り込んだ。しかし10年6月にベトナム国会は費用がかかりすぎると新幹線建設方針を否決。今年に入り、ハノイ市内の鉄道建設を巡るODA(政府開発援助)事業に絡み、鉄道コンサルタント会社「日本交通技術」がベトナム鉄道公社幹部に贈賄していた事実が発覚、鉄道公社総裁は降格された。これにより日本のベトナムへのODA供与の全体がストップしている状態だ。
 タイの高速鉄道計画を巡っては、かねてから中国とのつばぜり合いになっていた。そこに政変が起き、高速鉄道計画自体が吹っ飛んだ形だ。
 インドについては、昨年末に日本コンサルタンツが高速鉄道計画に関する調査事業を受注した。しかしフランス企業も同様の事業を受注しており、本工事を日本企業が受注できるとは限らない。加えて10年ぶりの政権交代で高速鉄道建設自体が不透明になった。
 アメリカへのリニア新幹線の売り込みも、実現の可能性は乏しい。葛西は昨年2月の日米首脳会談で安倍に「リニアを日米協力の象徴に」と提案させ、今年4月に駐日大使のケネディをリニアに試乗させたが、安倍の対米対抗的突出で日米関係は冷え込み、輸出戦略は暗礁に乗り上げている。そもそもリニアの輸出など、営業運転の実績がない限り進むはずがない。
 ヨーロッパの鉄道車両メーカービッグスリーに比べ日本企業の競争力は格段に立ち遅れている。

仏独に争闘戦で負け続ける

 04年度の古い統計だが、カナダ発祥で欧州中心に事業展開するボンバルディアの鉄道車両部門の売上高は7900億円、仏アルストムは7100億円、独シーメンスは5700億円に対し、日本の鉄道車両メーカー6社の合計売上高はわずか2705億円だ。
 この数年で日本企業が海外の鉄道市場に食い込めた例はそう多くない。12年末に日立がイギリス高速鉄道HS2用の車両を受注し、今年4月にJR東日本がHS2の運行・保守にかかわるコンサルタント契約を締結。昨年秋に川崎重工が米ニューヨーク州交通局から車両を受注し、昨年末、東芝、丸紅、JR東日本がタイ・バンコクの都市鉄道パープルラインの車両・運行・保守を一括受注。昨年秋に大林組や清水建設などがインドネシア・ジャカルタの地下鉄建設を受注し、同年末に日本コンサルタンツが同国の高速鉄道に関する調査事業を受注した。
 新幹線輸出が行き詰まる中で、日帝は当面は都市鉄道や地下鉄で輸出の実績をつくるとしている。だがJR東日本「グループ経営構想Ⅴ」が世界の鉄道市場規模を22兆円と打ち出したことに象徴される日帝の構想は、大破産しているのだ。

一層の外注化強行するJR

 安倍政権は6月24日、「日本再興戦略改定2014」(成長戦略)を決定した。昨年6月策定の「日本再興戦略」で強調された「インフラシステム輸出」についての記述は大幅に減った。だが、だからこそJRは一層の外注化・非正規職化を強行し、低コストを売り物に海外市場に殴り込みをかけるしかない。
 JR東日本は車両製造業の海外進出を唱えて新津車両製作所を分社化し総合車両製作所に移管した。その新津事業所には「できない理由よりもやる方法」という標語が掲げられた。まさに最悪のブラック企業だ。
 「鉄道パッケージ輸出」とは、この外注化システムを輸出して、地域を面として制圧するということだ。だが、外注化によるJRの大事故続発は、鉄道輸出戦略をますます破産させている。
 6・8国鉄集会で切り開かれた国際連帯をさらに発展させ、安倍―葛西もろともJR体制を打倒しよう。
(長沢典久)
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