崩壊するJR体制⑥ 川崎駅事故もたらした外注化 業務は下請け5社に分割され指揮命令系統は根本から崩壊 責任は外注化したJRにある
週刊『前進』06頁(2637号02面04)(2014/06/23)
崩壊するJR体制⑥
川崎駅事故もたらした外注化
業務は下請け5社に分割され指揮命令系統は根本から崩壊
責任は外注化したJRにある
2月23日に発生したJR京浜東北線・川崎駅構内での列車脱線転覆事故は、民営化・外注化による安全崩壊を示す大事故だ。この京浜東北線事故の実態はいかなるものだったのか。
事故は2月23日午前1時過ぎに発生した。当日、川崎駅構内では「駅ナカ」ビジネスのための駅改良工事が行われていた。その工事用車両が、線路閉鎖手続きのとられていない線路に載せられ、そこに回送列車がやってきて衝突し、進入してきた回送列車は脱線・転覆した。
そもそも「線路閉鎖」とは、作業中に列車が進入してくることにより起こる事故を防ぐため、その範囲を「列車進入禁止」にする措置だ。線路閉鎖をとった区間では、原則として列車が進入することはなくなる。今回の工事も、線路閉鎖をとった上で作業を行うことになっていた。
しかし、当日の作業は線路閉鎖をとることになっていた7本の路線すべてを閉鎖する以前に開始された。最終列車の通過時間の早い路線から順に線路閉鎖を行い、工事用車両を線路に載せていった。その中で、誤って線路閉鎖されていない路線に車両を載せてしまったのだ。
線閉責任者も外注会社から
なぜ線路閉鎖されていない線路に誤って車両を載せてしまったのか。ここに外注化・規制緩和の矛盾が現われている。工事に携わっていたのはすべてJRの下請け会社だ。工事用車両を線路に載せる過程だけで、作業は実に5社にもバラバラに外注化されていた。工事全体の責任者、線路閉鎖の責任者、工事車両を誘導する重機安全指揮者、工事用車両の運転手の全員が、別々の下請け会社の社員だった。
今回の事故は、直接には重機安全指揮者と工事用車両運転手との間で、どの線路に車両を載せるのかが誤って伝えられたことにより起こっている。JR東日本は事故の後、「誰から指示を受けて作業するのか、指揮命令系統図を作成し、点呼で一人ひとりにそれを示して確認する」という文書を出した。何次もの下請け化により、基礎中の基礎である指揮命令系統が崩壊していることを、JR自身が自認せざるを得ないということだ。
しかし、問題の根はさらに深い。最大の問題は、JRの工事にもかかわらずJR東日本が工事に何の責任も取っていないことだ。
本来、鉄道運行と密接に関連する線路閉鎖手続きは、JR本体の社員が責任を持って行うべきことだ。しかし、工事の現場にはJR社員は一人もおらず、線路閉鎖責任者は元請け会社のさらに子会社から派遣されていた。こうしたあり方は川崎駅事故の場合に限らず常態化している。
そして事故が起これば、JRは「単に発注しただけ」と責任を逃れ、すべてを下請け会社に押しつける。これほどまでの無責任体制が安全を崩壊させたのだ。
列車防護できる体制もない
外注化の結果、安全を守るための仕組みも解体されている。線路閉鎖できる時間に差がある場合、今回のようにすべての路線が閉鎖されていなくても作業を始めることがよくある。その場合、線路閉鎖されていない路線に作業員が入らないように見張りを立てるとか、ロープを張るなどの措置をとらなければならない。しかし、当日はそのような措置がとられなかった。
また、工事用車両を線路に載せる際には「誘導」が必要になる。本来ならば1台の車両に1人の誘導員がつき、誘導員が「進め」という合図を送っている間だけしか工事用車両は進行できないことになっている。誘導員の合図が途絶えたら、直ちに停止しなければならない。しかし、当日は1人の誘導員が一度に何台もの車両を誘導していた。そして、事故の当該車両には誘導員がついてさえいなかったのだ。
JR東日本は、工事用車両が誤った線路に載せられているのを発見した重機安全指揮者らが、その車両を線路から降ろせと指示したことを問題だとしている。本来は、直ちに列車防護(緊急時に列車を停止させる措置)を行わなくてはならないからだ。
しかし、当日の体制は、そうした列車防護を行えるような要員は配置されていなかった。列車見張り員はホーム上の作業に関する見張りをしており、他の作業員も列車の進入方向に向かって停止合図を送れる状態ではなかったのだ。
国鉄全国運動発展させよう
すべての原因は民営化で利益を最優先し、業務を下請け・孫請け会社に外注化したことにある。利益のために要員を削り、下請け化が2次、3次と重層化するにつれて、労働者は低賃金で長時間酷使されることになる。その一方で工事の期間は短縮され、厳しいスケジュールの中での作業が強制される。
その日の作業が始発列車の時間までに終わらなければ列車を止めなくてはならない。それは、下請け会社の労働者には大きなプレッシャーになって襲いかかる。少しでも早く作業を始めたい、何とか早く終わらせたいと考えてしまうのは、下請けという立場から来る大変な重圧があるからだ。その中で、作業スピードを優先させて安全を犠牲にすることが常態化していったのだ。
外注化・非正規職化がとことんまで進んだ上に、さらにこうしたことが繰り返されれば、労働者の誇りも労働者同士の団結も奪われる。そうなれば、安全を守ろうとする意識自体が解体され、安全は根本から崩壊する。韓国セウォル号沈没事故は、その現実をまざまざと示している。
全国、全世界で民営化・外注化の矛盾がとりわけ安全問題を焦点にして噴き出している。求められているのは、この攻撃と真正面から闘う労働運動・労働組合の復権だ。6・8全国集会で発せられた新たなアピールに応え、国鉄闘争全国運動の本格的発展に向けて闘おう。安全破壊のJR体制を打倒しよう。
(伊勢清和)