海自「たちかぜ」裁判が大勝利 隊内決起と家族の闘いが結合 労働者と兵士の団結を強化へ

発行日:

週刊『前進』06頁(2631号05面03)(2014/05/12)


海自「たちかぜ」裁判が大勝利
 隊内決起と家族の闘いが結合
 労働者と兵士の団結を強化へ

「いじめ自殺」に賠償責任を認定

 4月23日、海上自衛隊横須賀基地の護衛艦「たちかぜ」乗組員だった1等海士が自殺した原因は艦内でのいじめであるとして、家族が国と先輩の元2等海曹に損害賠償を求めた東京高裁での控訴審で、原告が勝利判決をかちとった。小野寺防衛相が上告を断念し高裁判決が確定した。重大な勝利だ。
 勝利の核心は、1等海士を自殺(04年10月)に追い込んだ自衛隊に対する原告・家族の怒りと、防衛省の証拠隠蔽に怒った3等海佐の反乱=内部告発(12年4月)を始めとする将兵の隊内決起とがひとつに結びついたことである。
 横浜地裁の一審判決は「いじめ自殺」の予見可能性を否定し、国家の加害責任を不問にした。
 これに対し東京高裁は、3等海佐の決起で開示された200点以上の証拠による艦内いじめの実態解明によって、国家の賠償責任を認定した。「上司職員において上記調査(被害実態の調査)を行い、その時点で被控訴人S(暴行を加えていた元2等海曹・懲戒処分)に適切な指導を行っていれば、自殺は回避された可能性がある」と判示し、「上司職員」らによる予見可能性を認め、「被控訴人Sの暴行及び恐喝並びに上司職員の指導監督義務違反との間には相当因果関係がある」と認定し、被告国・防衛省に約7330万円の支払いを命じた。

許せぬ証拠隠蔽は事実上不問に

 一方、この判決の反動性も、海自による組織的証拠隠蔽に関する判示の中に表れている。
 自殺直後に海自が乗組員に実施した「艦内生活実態アンケート」を被告国が「隠匿した」と認定しながら、「直ちにこれを証拠として提出しなかったとしても、それが訴訟上の信義則に反するということはできない」として防衛省を擁護している。そして「廃棄した」という大うそによる証拠隠し、3等海佐の決起による証拠隠蔽の暴露とその後の証拠開示など「一切の事情を考慮し、父親に対する慰謝料額は、20万円をもって相当と認める」と判示している。
 要するにこの判決は、防衛省が組織的に行った証拠の隠蔽工作を、事実上不問に付したということだ。それが「20万円相当」に示されている。
 06年4月に家族が提訴し、11年3月に一審判決。父親は05年に行政文書開示請求を行ったが、防衛省・海自は「アンケートは破棄した」と回答し、隠蔽した。父親は判決を聞くことなく09年に断腸の思いのまま死去した。「国が早くアンケートの存在を明らかにしていれば、最後まで裁判を見届けられたかもしれない」(原告・家族)。まさに1等海士の父親も国家と防衛省によって殺されたと言って過言ではない。判決文には、防衛省への一片の勧告や警告すらない。この問題で情報公開に関する国の審査会では、防衛省は「組織全体として不都合な事実を隠蔽しようとする傾向があった」とする異例の答申書が出された。それほど組織的隠蔽が横行しているのが現実である。
 防衛省は内部告発した3等海佐の懲戒処分手続きを進めていたが、判決後に見送った。処分を発動すれば怒りの炎に油を注ぐことになるからだ。
 現在、13年4月段階で「たちかぜ」裁判を除き、8件の自衛官(元自衛官)本人や家族による裁判が全国で闘われている。札幌高等裁判所(本人)、札幌地方裁判所(本人)、名古屋地方裁判所(2件、いずれも本人)、前橋地方裁判所(両親)、京都地方裁判所(本人)、神戸地方裁判所姫路支部(本人)、秋田地方裁判所(本人)などである。
 日本全国に自衛隊の基地が存在し、全国の裁判所で兵士と家族が国家権力と対峙し、非和解で闘っている。仮に支援勢力が体制内派であろうとも本人、家族の国家権力への怒りは非和解である。
 特定秘密保護法による国家権力の組織的隠蔽工作が強化され、証拠隠蔽の暴露は犯罪とされる可能性が高くなる。係争中の自衛官裁判と特定秘密保護法廃止の闘いは一体で勝利を切り開かなければならない。

秘密保護法廃止と一体で闘おう

 安倍政権は国家主義と排外主義を前面化しつつ集団的自衛権の行使による自衛隊の世界的展開、武器輸出の解禁と防衛産業の再構築など、戦争と改憲に突進している。世界大恐慌と争闘戦の軍事化・戦争化の情勢は自衛隊・軍隊内の矛盾を激化させ、その矛盾は全兵士に極限的に集中されていく。
 自衛隊のイラク派兵当時4カ月で31人の自衛官が自殺し、イラクへ派兵された陸海空の自衛隊員は5年間で延べ1万人。そしてこの1万人の兵士は精神面にも大きな影響を受け、帰国後28人が自殺した。派兵された隊員の3割がPTSD(心的外傷後ストレス障害)など精神に不調を訴えている(NHK「クローズアップ現代」)。28人の自殺を、自殺率を示す10万人当たりに置き換えると、陸自は387・0人、空自は186・7人。13年の日本の自殺率は21・4人であるから陸自は18倍、空自は8・7倍という恐るべき高さになる。
 米兵の自殺も多い。イラク帰還兵が殺人を犯す確率は市民平均の114倍、米兵の性暴力は27分ごとに発生し、女性兵士の3割がレイプ被害にあい、イラク帰還の母親兵士はわが子を愛する感情さえ奪われている。
 安倍政権による集団的自衛権の行使容認は、自衛隊員の人間性を根底から破壊し、自殺者を増大させる。だが隊内からの決起はすでに開始されている。全兵士の怒りを全地域の合同労組、ユニオンに組織しよう!
 あらゆる機会を活用し、兵士の地域労組への結集を呼びかけよう。兵士は軍服を着た非正規労働者だ。世界は大恐慌と戦争の時代であると同時にプロレタリア革命情勢である。戦争情勢が世界の労働者の革命への決起を促進し、日米韓を軸とする国際連帯が発展している。2010年代中期階級決戦の真只中、国鉄10万筆署名達成と6・8国鉄集会から戦争・改憲阻止の8・17大集会への全過程で兵士を労働組合と革命党に組織し、労働者と兵士の団結を強化しよう。
(革共同反軍闘争組織委員会)

このエントリーをはてなブックマークに追加