川崎駅事故 原因は何か 保線労働者は語る 業務は委託してはならない 作業も人員も直営に戻せ!

週刊『前進』10頁(2630号02面04)(2014/04/28)


川崎駅事故 原因は何か
 保線労働者は語る
 業務は委託してはならない
 作業も人員も直営に戻せ!


 JR東日本の川崎駅構内事故は、尼崎事故のような大惨事になりかねなかった重大事態だ。JR体制は崩壊している。事故の背後にある現場の実態をJRの保線労働者に話してもらった。(編集局)

JRがするのはデータ管理だけ

 現在私は、JRのエルダー社員としてU建設に出向し、保線作業に携わっています。エルダー社員というのは、JRを定年退職した後に再雇用された社員で、原則としてJRの関連会社に出向に出されます。
 夜勤は月に約10回入ります。泊まり明けの明けの日の夜に出勤する連続夜勤はきついですね。これが月に1、2回はある。エルダー社員の場合、月給は17万程度。こんな労働条件なのに賃金は本当に安い。
 私がしている主な仕事は、例えばレールをたたいて締結装置はどうか、シェリングと言われる傷がレールにあるかないか、きしみや破損があるかないかを3㌔ぐらい歩いて調べるレール検査修繕業務などです。
 私の職場でも実際に線路の補修作業をするのは2次下請けのS興業です。JRがあってU建設が1次下請け、S興業が2次下請けという関係です。バックホーというユンボを小さくしたような機械を2台、3台と使う場合は、S興業の下にさらにN総業が3次下請けとして入ります。
 S興業の労働者はほとんどが50歳代、60歳代です。若い人が入ってきても1年ももたない。S興業の労働者は、1カ月の労働日が60日にもなる。昼夜働いて休みもないということです。
 国鉄時代末期に線路の検査部門だけが国鉄に残されて修繕作業は外注化されました。さらにJR東日本は2000年9月に「設備メンテナンス体制の再構築」を提案し、検査部門も外注化しました。JRに残っているのはパソコンでデータを整理・管理することだけです。JRの保線技術センターにいる青年労働者は実際にレールを交換した経験もマクラギを交換した経験もありません。
 川崎駅事故後、JR東日本は「工事にJR社員を立ち会わせる」という対策を打ち出しました。しかし、実際の工事経験がない人が立ち会っても、作業を見ているだけで危険を察知して止めることはできません。
 川崎駅事故では、線路閉鎖がとれていない京浜東北線北行に軌陸車を入れてしまったことが事故につながりました。軌陸車というのは一般道も線路の上も走れる作業用車両のことです。
 私も軌道工事管理者として、線路閉鎖責任者になることがあります。JR東日本には「線路閉鎖工事手続(規定)」があって、レールがつながった状態でのマクラギや道床の交換、レールの締結装置の交換、規模が小さいレールの交換、レールの状態の検査、「その他、それに類似する作業」は、受託会社の社員でも線路閉鎖責任者になれるとされている。2次下請け会社の社員が1次下請け会社に出向しているという形で軌道工事管理者になることもある。

線閉責任者の9割を受託会社で

 各保線技術センターの保守エリアで行われる線路閉鎖の9割以上が、受託会社の社員が責任者になって行われています。
 しかし、線路閉鎖を許可するかどうかを決めるのはJR、直接にはJRの駅です。夜間作業の場合なら、駅の信号所が終電が通過したことを確認して、線路に新しい車両が入れないように信号を操作します。
 線路閉鎖の手続きは、事前に「何日、何時から何時まで、どこそこでこういう工事をします。何番列車から何番列車までの間で線路閉鎖の手続きをお願いします」という申請書をJRに出す。例えば始発電車が工事現場を朝4時に通過するなら、遅くとも4時5分前までに作業を終え線路閉鎖を解除するという計画を作る。それを列車運行と矛盾がないことを確認した上でJRが承認して「申請どおり線路閉鎖の手続きを完了します」という通知が来る。
 昔はその手続きは紙に書いてやっていました。今はATOS(東京圏輸送管理システム)が導入され、基本的にそのやり取りはパソコン端末でJRの施設指令との間で行います。パソコン端末はU建設にも設置されていて、関連会社が線路閉鎖の手続きをするのは当然のこととされています。
 川崎駅事故のように、線路閉鎖されていないのに作業を始めてしまうことはよくあります。それを防ぐため、私のところでは、例えば上り線は最終が通過していても下り線の最終がまだ通過していない時は、上り線の線路閉鎖がとれていても、どの線路にも立ち入らせないようにしています。
 ただ、単線か複線か複々線かなど線区の特情によって、それがやりやすいところとやりにくいところがある。川崎駅の場合、東海道線の最終列車は上下線とも0時10分ころに来て、京浜東北線の最終列車は南行、北行とも1時近くに来る。約1時間の差があると、京浜東北線は動いているけれど東海道線は最終が通過したから、東海道線での作業は始めてしまおうとなりがちです。
 作業に手間取って始電間際までかかってしまうことはしょっちゅうあります。作業が終わっていなければ列車を止めてもいいことになっている。安全のためには列車を止めなければいけない。止めたからといって処分されるわけでもありません。けれど、作業が計画時間内に終わらなければ、工事計画が悪かったと言われます。そのプレッシャーがあるから、早く作業を始めたいという気持ちになってしまう。
 全部の線路で線路閉鎖がとれないうちはどの線路にも入らないようにしていれば、川崎駅事故は起こりませんでした。請負業者がいっぱいいてそれぞれ指揮命令系統が違うから、工事着手前の意思一致もきちんとできなかった。鉄道業務は委託しちゃだめなんです。

外注化で一切の責任逃れるJR

 川崎駅事故後JRがしている対策は、指揮命令系統図を作って点呼の時に張り出して作業員全員の名前を書かせることだけです。しかも内部監査があるからそうするんだと言う。アリバイでしかない。事故対策としてJRが受託会社にあれをやれ、これをやれと言うんなら、JRが自分でやれよということです。
 JRは事故が起きても刑事責任も問われないし労働者への損害賠償もしない。賠償するのは受託会社。労働安全衛生法や建設業法は、業務を委託した側の「元方事業者」は下請け労働者の労災防止に責任を負うと定めていますが、JRは1次下請けが「元方事業者」だと言い逃れて、一切責任をとりません。こんな現実は絶対におかしい。
 線路閉鎖工事は首都圏だけで年間約20万件あります。私が線路閉鎖責任者になる作業も年間100件近くある。JRは事故対策として「JR社員を工事に立ち会わせる」と言いますが、本当にそうするなら、JRは数百人、人員を増やさなければならない。ならば委託した作業も人員もすべてJRに戻すしかない。外注化した作業をJRの直営に戻せ、外注先の労働者をJRの直雇いにしろと主張し、動労千葉・動労水戸とともに外注化粉砕へ闘わなければならないと思います。
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