ウクライナの内戦=政権崩壊とロシア・米欧日の深まる争闘戦 労働者の国際連帯で戦争阻止へ

週刊『前進』06頁(2623号06面01)(2014/03/10)


 ウクライナの内戦=政権崩壊とロシア・米欧日の深まる争闘戦
 労働者の国際連帯で戦争阻止へ

(写真 プーチンのクリミア軍事占領に反対するデモが弾圧に屈せず闘われた【3月2日 モスクワ】)

(写真 ファシストの右派セクターが治安部隊と衝突【1月21日 ウクライナの首都キエフ】)


 2月22日、ウクライナでヤヌコビッチ政権が崩壊し、27日に「祖国」(元首相ティモシェンコが党首)のトゥルチノフ議会新議長を大統領代行とする暫定政権が成立した。暫定政権は欧州連合(EU)へのウクライナの統合をめざす方針を打ち出した。欧米帝国主義諸国は争闘戦を激化させながらも、暫定政権支持を明らかにしている。だがロシアのプーチン政権は、ヤヌコビッチを正統な大統領とし、クリミア半島の軍事占領で暫定政権に圧力をかけている。東南部への軍事侵攻も射程に入れている。プーチンは、ユーラシア経済同盟(構想)にウクライナを参加させるために、ウクライナのEUへの統合、欧米による勢力圏化を力ずくで阻止しようとしているのだ。クリミア占領、ウクライナ分割の危機、北大西洋条約機構(NATO)軍とロシア軍の軍事衝突の可能性――第3次世界大戦の危機さえ切迫している。大恐慌は戦争と大失業を生み出すが、革命をも生み出す。労働者の国際的団結で帝国主義の戦争突入を阻止し、世界革命を引き寄せよう。

右翼のクーデターで政変

 ウクライナ政変の直接のきっかけは、昨年11月21日、ヤヌコビッチ大統領が突如、EUとの連合協定(自由貿易協定などを含む)への署名をとりやめ、ロシアとの関係強化に回帰したことだ。連合協定はEU加盟への道だが、加盟へのハードルは高い。またデフォルト危機が切迫しているウクライナに国際通貨基金(IMF)はカネを出し渋った。そこへプーチンが150億㌦の融資を申し出た。ヤヌコビッチはこれに飛びついたのだ。
 EU加盟への道を閉ざされて怒った人民がヤヌコビッチ退陣とEU加盟を掲げ首都キエフの独立広場に押し寄せた。連日10万人規模の人民が広場や政府庁舎を占拠した。
 この闘いは、労働者階級人民の大衆的実力行動の形をとっているが、中身は階級闘争になっていない。事の本質は、6大財閥などウクライナの支配階級が親欧米派と親ロシア派に分かれて繰り広げる権力闘争だ。今回、親欧米派がファシスト武装組織を動員し、実力で親ロシア派を打倒した。
 ウクライナの労働者人民のソ連スターリン主義への怒り、ソ連崩壊後の資本主義化=私有化と財閥支配への怒りは、親欧米派のEU加盟路線へとねじ曲げられている。
 旧政権打倒の最終局面で政府と野党との停戦合意を破り、治安部隊との銃撃戦を展開したのが極右ファシスト連合「右派セクター」だ。これが暫定政権の性格を決定的に規定している。代表格のヤロシは、ナチに協力して反ソ連パルチザン戦争を戦った解放軍の系譜を自認する。極右の「自由(スボボダ)」をリベラルで合法主義だと批判。暫定政権には加わらず、反ロシア、反EUの極右民族主義を貫く。
 「自由」も極右ウクライナ民族主義だが議会主義だ。戦前ナチと協力したウクライナ民族主義者ステパーン・バンデーラを英雄視する。
 与党第1党「祖国」は財閥を基盤とするブルジョア政党だ。議会の最大勢力、下野した地域党も東南部の財閥を基盤にしている。「祖国」の党首ティモシェンコも大統領選に立候補するが、金権腐敗のヤヌコビッチと変わらない。

6大財閥が支配

 ウクライナ経済は重工業中心の6大財閥などの財閥勢力によって牛耳られている。財閥はソ連スターリン主義の崩壊で残された国有企業のただ同然の払い下げ・民営化で形成された。穀物や鉄鋼などの輸出の利益への課税が免除される。数百億㌦もの資金をキプロスなどのタックスへイブン(租税回避地)に逃避させ、投機に回し、国内経済を疲弊させてきた。
 世界大恐慌の影響で欧州経済が収縮し、天然ガスパイプラインのトランジット(通過)料収入が激減した。
 ウクライナの国内総生産(GDP)は1989年の75%程度だ。労働者の平均賃金は隣のポーランドの3分の1、月3万円だ。人口は1989年から680万人も減り、現在4500万人。
 新政権は、EUや米帝、IMFの指導のもと、債務危機、経済危機ののりきりをかけて新自由主義政策と緊縮政策を強行するだろう。大恐慌の中で一層の大失業と超低賃金、社会保障解体が労働者を襲うことは不可避だ。それはギリシャを見れば明らかである。欧米への幻想は一気に吹き飛び、「生きさせろ!」の階級闘争が爆発する時は早晩必ず来る。
 1905年のロシア革命においてキエフ、ハリコフ、オデッサなどの労働者ソビエト、戦艦ポチョムキンの水兵反乱の歴史をもつウクライナの労働者階級は記憶を呼び起こして必ず立ち上がる。

ロシアがクリミアを占領

 右翼民族主義で固まったウクライナ最高会議はは2月23日、2012年に成立したロシア語公用語法を撤廃した。今後はウクライナ語だけが公用語となる。東南部に多いロシア語系住民の危機感が募った。26日、クリミア自治共和国の首都シンフェロポリで、中央の実権を握った旧野党勢力を支持するクリミア・タタール人と支持しないロシア系住民とが衝突し、2人の死者が出た。翌27日、ロシア系議員のみが参加した議会で内閣不信任を議決し、新首相にロシア系のアクショーノフ議員を選出し、自治権拡大を問う国民投票の実施を決めた。
 この危機と混乱の中、27日朝、所属不明の覆面部隊がシンフェロポリの政府庁舎、議会を制圧、28日には2空港を制圧した。さらにアクショーノフ首相がロシアに治安維持の支援を要請すると、ロシア議会は3月1日、在外ロシア人の保護のためにウクライナに軍事介入することを承認した。2日、武装集団はウクライナ軍事施設を包囲・掌握、将兵を武装解除した。また同日、ウクライナ海軍司令官が寝返り、クリミア自治共和国への忠誠を誓った。クリミアを制圧した覆面武装集団がロシア軍であることは明らかだ。しかしプーチンは覆面部隊を「地元の自衛勢力だ」と言い張っている。
 ロシアは2008年にグルジアに軍事侵攻し、
南オセチア自治州とアブハジア自治共和国をグルジアから分離・独立させ、国家承認した。同じことをクリミアでやろうとしているのだ。
 プーチンは4日、本格的な軍事介入やクリミア自治共和国のロシア併合の計画はないと述べた。経済制裁による損失、主要国首脳会議(G8サミット。6月にロシアのソチで開催予定)への影響を考慮した発言だ。しかしウクライナ東南部が「無法状態」になった場合には「あらゆる手段でロシア語系住民を保護する」と本音を明らかにし、暫定政権を威嚇した。2月28日〜3月3日に行われたウクライナ国境付近での約15万人のロシア軍大演習はそのデモンストレーションだ。

対立する米・欧・日の利害

 帝国主義諸国は温度差をはらんで争闘戦を展開しつつも総じてロシアの軍事介入を「国際法違反」として非難、経済制裁や軍事力強化を図っている。軍事的衝突、戦争危機が高まっている。
 米英仏とカナダの4カ国は2日、G8サミットの準備会合を見合わせる方針を決定した。ケリー米国務長官はロシアに経済制裁を科す用意を表明した上に、ロシアを主要国(G8)から外すこともありうると警告した。
 オバマ米大統領は4日、自国民保護のための軍事介入を正当化したプーチンに対し、「国際法違反だ。だれもだまされない」と息巻いた。
 NATOは5日、ロシアとの軍事協力の縮小、ウクライナとの共同訓練・演習の拡大、ウクライナの軍事能力の向上を図ることを決めた。ヘーゲル米国防長官もバルト諸国の空域への戦闘機を増派すると語った。ロシアへの軍事圧力が強化されつつある。
 だが米欧の不一致と対立も目立つ。ロシアとの経済的関係の深いEU諸国(ポーランドを除く)、ウクライナとロシアの対話を図り、緊張緩和に持ち込もうとしている。
 メルケル独首相とプーチンの独ロ首脳協議での一致を受けて、欧州安保協力機構(OSCE)が連絡調整グループ会議を招集する方針を示した。
 欧州諸国はパイプラインによるロシア産天然ガス輸入に大きく依存している。ドイツとロシアはウクライナを通らないノルドストリーム(シュレーダー元独首相が社長)で直結している。ドイツのロシアとの貿易額は米国とロシアとの貿易額の10倍だ。

日帝安倍の危機

 日帝・安倍は「すべての当事者の最大限の自制」(菅官房長官)を求めた。だがむしろ米ロのはざまであえいでいる。自民党の石破幹事長は3日、「自国民保護」のための軍事介入を「邦人救出」と同じだと言って事実上ロシアを支持した。
 日帝は、資源大国であり巨大市場であるロシアとの関係を損なうまいと必死だ。安倍と友好関係にある唯一の外国元首、プーチンの秋の訪日を成功させなければならないのだ。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉でも日米決裂をいとわない。安倍は靖国神社参拝で米帝の怒りを買い、日米同盟関係は崩壊寸前だ。中韓との関係も最悪だ。国際争闘戦から脱落し、孤立化する日帝は戦争と改憲へ突き進んでいる。危機は深まる一方である。
 帝国主義諸国はウクライナへの金融支援を決めた。ケリー米国務長官は4日、ウクライナ暫定政権に10億㌦(約1千億円)の融資を行うと表明した。EUも5日、暫定政権に約2年で少なくとも110億ユーロ(約1兆5400億円)の支援をすると決めた。ウクライナの対外債務は昨年末時点で1400億㌦(約14兆3千億円)に上る。今後2年で350億㌦の資金援助が必要だと暫定政権は訴えてきた。欧米が応えたのはウクライナ市場を確保し、勢力圏化するためだ。ここも争闘戦の場となる。

国際主義貫こう

 労働者階級は何をすべきか。民族や国境、国籍を超えてプロレタリアートとして一つに団結し、国際帝国主義・大国を打倒することだ。それだけが戦争を阻止できる。
 ウクライナとロシア、そして全世界のプロレタリアートの利害は共通である。労働者階級を分断し競争させ、対立させ、戦争に動員し労働者同士を戦わせるのは資本家階級とその国家だ。資本と国家を打倒しよう。
 階級的労働運動と労働者国際連帯を発展させよう。そうすればロシア・プーチンを擁護し戦争に向かう新自由主義=日帝・安倍を必ず打倒することができる。
 〔藤沢明彦〕

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