闘う弁護士が対談 武内さん×森川さん 裁判員裁判つぶす時
5・18集会で裁判員制度にとどめを
闘う弁護士が対談 武内更一さん×森川文人さん
安保・沖縄闘争の爆発で改憲阻止へ
破綻あらわな裁判員裁判つぶす時
「裁判員制度にとどめを!全国集会」が5月18日に東京・日比谷公会堂で開かれる。またこの日「改憲国民投票法」の施行が強行されようとしている。4—5月国鉄決戦、沖縄決戦の重要な一環として5・18集会に大結集をかちとろう。破綻があらわな裁判員制度を廃止に持ち込み、鳩山民主党・連合政権の打倒へ攻め上ろう。裁判員制度はいらない!大運動、司法改革絶対反対・改憲阻止の闘いの先頭に立つ武内更一弁護士と森川文人弁護士に闘いの地平と5・18集会の意義について語っていただいた。(聞き手・編集局)
改憲路線進める鳩山民主党
——各政党・勢力の改憲への動きはどうなっているでしょうか?
森川 民主党は最初から改憲政党です。小沢一郎は「国連による国際安全保障」「国連中心主義」を打ち出し、日本の軍隊の海外派兵を自由にやることを当初から考えています。そういう政党が政権を握っている。国内的には道州制的な形で機動的に国家を運営する体制をつくろうと考えている。「国会改革」の方針に改憲の意図が現れています。内閣法制局長官の国会答弁禁止は、法案は出されていないが、この1月からの通常国会では法制局長官は答弁できなくなっています。また、安保・沖縄問題で民主党・鳩山のペテンが露骨に現れています。実質的な改憲を進めながら明文改憲を狙っています。裁判員制度も実質改憲の一つです。
武内 自民党は「新憲法草案」を出しました(05年11月22日)。民主党も「憲法提言」で改憲に向かって基本的なことを言っています(05年10月31日)。5月18日に改憲手続法(国民投票法)が施行されると、憲法審査会を動かし、そこで改憲案を作ることになるでしょう。つい先日自民党は「兵役の義務の検討」を言い出した。欧米各国には「兵役の義務」があるから日本でもと言う。
森川 「現代の赤紙」といわれている裁判員制度が憲法には存在しない新たな「義務」として押しつけられた。このことからすると徴兵制もあり得ると思います。アメリカも、貧しい人たちが自ら軍隊に入り戦場に行く「経済的徴兵制」の状態になっていますが、アフガニスタン、イラクでの戦争が泥沼化しているため、自発的に軍に入る人が減っています。だから徴兵制に戻ることもあり得るのではないか。
武内 いきなり9条改憲という形でやらず、憲法全体について見直す、変えるというのが自民党、民主党の戦略です。特に民主党は「憲法提言」で地方自治のあり方を根本的に変えると言っています。都道府県を廃止して「道州」「広域自治体」「地方政府」をおき、大幅な権限を与える。大阪府の橋下知事も「地方政府」「大阪都」を主張しています。国家権力の根本は中央政府が握り、福祉や教育、住民へのサービスはみな地方の負担。民営化・外注化です。道州の総力で産業基盤を整備し、企業活動を自由にやらせる。
森川 憲法は権力に対する制限規定の性格を持つとされてきました。これを大転換させ、権力ではなく人民を縛るものに憲法を変えてしまおうとしている。やはり憲法9条が最大の問題。軍隊を持つなという現憲法の制限をはずすと、大手を振って小沢一郎のいう「普通の国」になれる。帝国主義的な侵略戦争に参戦できる。
武内 海外権益を守るためには軍事力が必要になる。戦争で破壊された国、紛争のあった国に「復興支援」「国際貢献」の名で軍隊が入る。企業も一緒に行く。イラクでそうなっている。アフガニスタンでも同じことが企図されています。
森川 この間「バイアメリカン」条項とか、GMの破綻に対抗するトヨタへのバッシングとか、トヨタにも大きな問題があるのはもとよりですが、露骨な保護主義的な動きが出てきている。日本でも高校の無償化や地方参政権の問題で北朝鮮はずしの排外主義が露骨に高まってきている。大恐慌、保護主義、排外主義、争闘戦という流れが1930年代と同じように来ている。民衆・労働者が主体的にこの動きを止めることが課題です。
国民投票法は改憲手続き法
——改憲、戦争を止めるにはどうしたらよいでしょうか?
武内 核になるのは労働者です。労働者を戦争に動員しなければ戦争はできないからです。労働者が団結して戦争動員を拒否することです。
森川 本土と沖縄の労働者の団結、朝鮮、日本、アメリカそして全世界の労働者のインターナショナルな団結が排外主義のプロパガンダに対抗する正しい方向だと思います。
武内 その場合「労働者の利益は企業と国家の利益と一体だ」というイデオロギーを打ち破ることが重要です。それは排外主義、保護主義、海外進出、侵略に労働者を動員するためのイデオロギーです。自分も傷つけ、相手国の労働者も殺し傷つけることになる。労働者に何も利益を生まない。
森川 労働者と資本は非和解的な関係、対立的な関係にある。戦争に行かされるのは労働者。今日も戦争は地球上で起こっている。若い人たちの暮らしは、国家予算と同じく戦中・戦後直後の混乱期と同程度。マスコミが戦中の思想弾圧として扱う「横浜事件」も過去の話ではない。法政大学でこの3年間に118人も逮捕・弾圧されている。昔がひどくて今がよいというわけではない。若い人はリアルにこの困難な時代にどう生きるかを真剣に考えている。このままでは展望がない。怒りの爆発、怒りの決起は不可避です。
武内 かつて日本の労働者は必ずしも強制的に戦争に動員されたばかりではなかった。自ら国の方針に従った面もある。支配階級は今もそれを狙っている。戦前のやり方が説得力を持ちかねない時代。一人ひとりでいたらそういうものに取り込まれかねない。それを見抜いて対抗できるのは団結。
——団結して戦争に反対しようということですね。5月18日施行の国民投票法にどう立ち向かっていけばよいでしょうか。
武内 国民投票法の狙いは改憲。その中心は9条改憲です。法案審議の過程で、改憲をして国のあり方を根本から変えないと今の体制がもたないという認識があった。だから改憲手続き法なんです。国会や「官」が全部一方的に改憲の方向を決め、マスコミが「よいことだ」と圧倒的に宣伝する中で投票に行かされる。そこが最大の問題なんだけど、政党などは最低投票率要件とか、投票者の年齢制限とか、技術的なことを議論する。
森川 正面から政治的目的を暴露すること、ごまかしようがない事実を突きつけることが重要です。今回、沖縄の普天間基地の移転問題で政府・与党も野党、マスコミも、日米安保を前提に県内、国内、国外のどこに基地を移設するかという問題にしています。反戦という本当の民衆・労働者の声をきちんと上げる運動をやらなければ、結局は軍事の枠組みに取り込まれてしまう。基地はいらない、どこにも基地はいらないという反戦の闘いを安保粉砕を含めてやっていくことが大事だと思います。
——改憲阻止と反戦、安保・沖縄は一体の闘いだということですね。
武内 「北朝鮮の脅威」というのはつくられたイデオロギーです。東アジアでは米軍と日本の自衛隊が圧倒的な軍事力を持ち、北朝鮮に重圧を加えている。アメリカはいつだって北朝鮮の政権を打倒する侵略戦争計画を持っている。
森川 「安全保障」という言葉はいんちき。本当は侵略戦争の問題です。4月8日に米ロが新戦略核兵器削減条約を締結した。アメリカとロシアが世界の戦略核の95%を持っていて、実戦配備の核弾頭をそれぞれ1550発に減らす。古くて使えないものを廃棄する。実戦配備しないで保管する戦略核の数は無制限。戦術核も無制限。新核軍縮条約で核はなくならない。本当の反戦、9条改憲阻止とは帝国主義打倒につながるものです。
やらないのが正しいと確信
——改憲攻撃の一つ、裁判員制度の問題に移りたいと思います。「裁判員制度はいらない!大運動」は現在どこまで進んでいるといえますか?
武内 大運動が始まったのは2007年の4月。「人を裁くことを義務付けるのはおかしい」というのが出発点。圧倒的多数の民衆が「人を裁きたくない」「人を裁くことを強制されたくない」と思っている。私たちは「人を裁く義務はない」とはっきり言って運動をしてきた。裁判員制度がいかに刑事司法を壊しているか、被告人の権利、憲法上の権利をいかに壊しているかを明らかにしてきた。それが「こんな制度は拒否してよい」「裁判員を義務付けられることはおかしい」という確信につながってきている。権力とマスコミが「施行1年」という既成事実を大騒ぎしても、読売新聞が今年3月27—28日に行った面接アンケートでは「裁判員はやりたくない」が76%です。現に毎日毎日裁判員裁判がやられている中で、なおかつ当初と同じ水準の拒否が維持されている。
森川 団結をつくり上げた。いやだと思っていたレベルから運動に発展している。いやだという人がいっぱいいる。跳ね返せるという機運が広がってきている。だからこの運動に関してはまったく少数者意識がない。われわれが多数者です。裁判員制度廃止こそ民主主義の役割というか、民衆・労働者の声であることがはっきりしてきた。
——「やりたくない」から意識的な批判、運動への進化・発展ですね。
武内 「やらないのが正しい」という確信になってきた。呼び出しを受けても行かない人、回答も出さない人が続出している。出頭に応じなかったら過料10万円の制裁が規定され、脅しに使われましたが、10万円を払ってでも裁判員には行かないという非常に強い拒否の意識が根付いた。その結果たくさんの人が拒否して出頭しないし、裁判所は過料取り立てを一つも執行できない。運動が追い込んできたんです。
——大運動は階級闘争の新しい地平を切り開いているようです。
武内 労働者・民衆自体を動員しなければならない制度なんです。だから労働者・民衆が強い意思で拒否したら成り立たない。
森川 裁判員制度というのは民衆・労働者への弾圧だったわけです。憲法を大転換し、国民を動員して処罰主体、お上意識の方に回すという攻撃・弾圧に対して、むしろ弾圧をきっかけにより主体的に民衆・労働者側から拒否し、反撃し、廃止まで求める運動になってきている。裁判員制度廃止の闘いは改憲阻止の大運動に発展する。
武内 司法改革制度審議会の意見書は「いままで国民は統治客体意識を持ってきた。これからは統治主体意識を持たなければいけない」と言っています。体制を支え担う側に積極的に身を投じる人格、人間をつくろうというイデオロギーです。「国のため」「社会のため」に自ら身を投じる人がいない限り簡単に戦争動員はできないから。
(裁判員制度のカラー全面広告が載った全国紙を広げ)「ともに。裁判員制度」と書いてある。右下に効能書き。「裁判に参加することで、犯罪がどのようにして起こるのか、考えるきっかけをつくる。安心して暮らせる社会には何が必要か、自分のこととして考える。そんな昨日とは違う自分と出会える」。社会防衛のイデオロギーです。最高裁と法務省と日本弁護士連合会が連名で宣伝している。弁護士は人権、国民の権利、その弁護の観点からこれに強く反対しなければならない。ところが日弁連は裁判員制度を宣伝する側に回っている。私たちはこれに一番怒っている。裁判員制度の狙いは「健全な社会常識を直截(ちょくせつ)に刑事裁判に反映する」こと、つまり国民の意識を人を裁く、社会を守る、国家権力と一緒に治安を維持するという立場に取り込むことです。
森川 それがまさに「昨日と違う自分」だね、国に協力する自分という。
勝てる展望を開いた大運動
——裁判員裁判の現状はどうなっていますか。
武内 裁判員制度は大きく破綻しています。最高裁の統計では、昨年5月21日に法律が施行されて以降の起訴案件数が昨年12月までで1200件。そのうち昨年12月までに処理できたのが140件。1千件以上が年越し。普通の裁判だったらとっくに終わっている。さらに1〜3月に起訴された何百件もがたまっている。どこの裁判所もパンクしています。
裁判員裁判にはあらかじめ法廷外で何をするかを全部決めてしまう「公判前整理手続き」がある。その密室で決めたこと以外は公開の法廷ではできない仕組みです。法廷で新しいことが出てきても無視。法廷で儀式、見せ物、ショーをしているだけ。こんなものは裁判ではない。
候補者として出頭した人は「人を裁きたい」人、国から命令されたら「やります」という人です。あとは「義務だから仕方なく来た」という人。そのように凝縮された中から6人の裁判員が選ばれる。だから裁判員裁判は一般の意識と全然違うものになる。非常に悪辣(あくらつ)な仕組みです。
森川 ただでさえ長い勾留期間がどんどん長期化する。被告人の防御権が制度的にも実際的にも破壊されている。最高裁やマスコミは、裁判員制度は「順調にいっている」と必死にキャンペーンしていますが、破綻しているのが本当の実態。それを一気につぶそうという運動が5・18全国集会です。
武内 大運動では、裁判員制度の本当の現状、実情を明らかにするために、毎月「裁判員制度はいらない全国情報——裁判員制度の実相を伝える唯一の情報誌」を出版しています。真実を知り、この制度はもう破綻している、だまされてはいけない、自分たちの反対でつぶせる、という確信を共有してもらいたい。その運動の一つの集約点として5・18集会をやります。
森川 破綻するのを待つのではなくて、主体的に民衆・労働者側から倒してしまうことをめざす運動です。ぜひぜひ結集をお願いしたい。弁護士も必死にがんばっています。
——勝てる展望が開かれていますね。
武内 行動すれば勝てる。黙っていたら自然には彼らはやめません。どんな汚い手を使ってでも。それを民衆・労働者の怒りでやめざるを得ないように追い込む。今までの刑事裁判がひどかったから裁判員制度がつくられた。裁判員制度をつぶし、刑事司法の悪しき慣行、運用を全部変えていく。
森川 自分たちの力で情勢を切り開き、社会を変えることができる。護憲ではなく改憲阻止。護憲というのは守りだけど、若い人たちには守りたいものはない。守るべき生活はない。仲間との団結以外に守りたいものはない。百年に一度の戦争と革命の時代、戦争に動員されることを拒否して革命に決起する——そういう闘いが改憲阻止の闘い。裁判員制度廃止の闘いもそこにつながる。
武内・森川 5・18集会に大結集しましょう。