「資本の原蓄過程」の再来 アメリカ労働者階級の現実
「資本の原蓄過程」の再来
資本主義打倒の革命が回答だ
新自由主義と民営化攻撃が生み出したアメリカ労働者階級のすさまじい現実
「経済危機後のアメリカでは、社会の貧困化が加速している。職がみつからず、学資ローンに追い立てられる若者たち。老後の生活設計が崩れた高齢者たち。教育や年金、医療そして刑務所までもが商品化され、巨大マーケットに飲みこまれている。オバマ登場で状況は変わったのか……」
『ルポ 貧困大国アメリカⅡ』(岩波新書 堤未果著)の見返しには、こう書かれている。これを、エンゲルスにならい現代版『アメリカにおける労働者階級の状態』として、革命の立場から読み切る必要がある。
借金地獄と年金破綻、監獄労働
第一に、現在のアメリカはどうなっているか。
前著『貧困大国アメリカ』(2008年)では、ハリケーン・カトリーナが暴いた貧富の格差、無保険のため病院から追い出される医療難民、貧困層を食いものとしたサブプライムローン、そして「経済徴兵制(貧困層の若者が入隊しイラク・アフガニスタン戦争に動員されていく)」と巨大戦争ビジネスの問題など、新自由主義のもとで階級社会のアメリカがどこまで行き着いたかが、衝撃的に明らかにされた。われわれはこれを、日本の姿に引き寄せて、新自由主義と民営化批判の観点から読んだ。今回は、オバマ政権となってどうなったか、が明らかにされる。そのすさまじい現実は、驚きと怒りなしに読み進めることはできない。
まず、教育の民営化、ビジネス化によって学資ローンが貧困層の学生たちを食いものとし、彼らが借金返済に追いまわされる姿が報告される。「数十億ドルの巨大市場と破綻する学生たち」だ。財政危機に苦しむ行政と恐慌下で利潤追求に奔走する資本が一体となって、あこぎな取り立てビジネスを行っている様が明らかになっていく。
次に、GMの労働者を襲った企業年金制度の破たんを例に、食っていけない、医者にもかかれない高齢者の絶望的状況が暴かれている。そこでは、GM資本とUAW(全米自動車労組)の瞞着(まんちゃく)と腐敗が決定的役割を果たした。民営化による年金と医療の崩壊、社会保障制度の解体は、労働者を食わせられなくなった資本主義体制そのものの問題である。
そして「刑務所という名の巨大労働市場」こそ、「外注革命」をなした現代アメリカの行き着いた姿である。民営化された刑務所において、時給40セントの懲役労働の一方で、部屋代(!)と食費、備品代で毎日10㌦が取られ借金づけとされていく。電気製品・防弾チョッキ・家具の製造、有害物質のリサイクル業務、電話交換、コールセンター業務(学資ローンの苦情窓口!)を受刑者のけた違いの超低賃金で請け負うビジネスが紹介される。「いまもっともトレンディな投資先—順調に増加する有罪判決と逮捕率が確実な利益をもたらしてくれます。急成長するこのマーケットに投資を!」——これは、ギャグでもフィクションでもない。大手投資会社のパンフレットに書かれた文章だ。
家を奪われた人びとがどんどん投獄され監獄労働を強制されていく状況が報告される。「あらゆる軽度の違反行為を取り締まる(投獄する)ためにニューヨーク市警は巨大なコンピューターシステムを導入して、個人情報を管理し始めた」。アメリカの総人口は世界の5%だが、囚人数は世界の25%を占める「囚人大国」なのだ。
まさに『資本論』第1巻24章が描き出す資本の原始的蓄積過程の再来である。受刑者や植民地から強制連行してきた人びとを炭坑や鉱山、厳寒の地で死ぬまで働かせる。農地から追い出された貧民たちを「救貧法」と称して強制的に労働に従事させる。働かない者は額に焼印をおされて重罰が科せられ3度目には死刑。
こうして暴力的に労働者階級を作り出し、資本蓄積の元手と担い手を歴史的に生みだしていったように、いまや最末期の資本主義において、同じことが行われている。
「外注革命」こそ決定的な転換点
第二に、何が決定的な転換点となったか。
歴史的転機は、レーガン以来の新自由主義と規制緩和、労働組合破壊の攻撃、とくに80年代における労働組合をめぐる激しい攻防のもとでの既成労働組合指導部の際限ない屈服にあった(2004年前進社刊『国際労働運動の新時代』参照)。問題はそれに続く90年代以降の「外注革命」が今日のアメリカ社会の惨状を作り出していったことだ。これは日本においても国鉄分割・民営化からせきを切ったように始まる外注化・分社化・子会社化、非正規職化として進行した過程である。
本書によれば以下のとおりだ。「アメリカの民営刑務所は19世紀末までにはほとんどの州で廃止となっていた。それから1世紀をへて、まったく別の形で復活し、100カ所以上に膨れ上がり、巨大なビジネスとなった。背景は、自由市場至上主義の熱気と連邦および州政府の財政難。90年代の外注革命のなかで、企業は非正規社員率を拡大する。しかし、もっと使い勝手の良い労働力として、数百億ドル規模の巨大市場、受刑者にスポットライトが当たった」「電話交換手は最低でも月に900ドルと社会保険等の経費がかかる。インドの労働者の初任給は月に平均159ドルから204ドル。受刑者を使えば、月36ドルから最大でも180ドル。福利厚生費は一切なし」
今、日本においても決戦を迎えたこの「外注革命」との闘い、全面外注化阻止・JR体制打倒の攻勢的闘い、第2次分割・民営化阻止決戦がいかに決定的であるかは完全に明らかだ。
『共産党宣言』を対置し闘おう!
第三に、ここまで行き着いた資本主義の惨たんたる状況に対して、突破の道はどこにあるのか。
「オバマでも変わらない」「オバマに裏切られた」ことは、この本も指摘している。だが結論は、「オバマを変えろ(鳩山を変えろ)」ではだめだ。資本主義への根底的な怒りを爆発させて、「腐りきった資本主義をプロレタリアートによる革命をもって打ち倒す時が来た、自ら立って革命をやろう」ということ以外にはない。この本が「爆発した教師と学生たち」としてカリフォルニア州立大学での学生と教職員によるストライキ闘争から始まっているのは重要なことである。この闘いは、3・4カリフォルニア全州教育100万人ストに発展している。ここにこそ、革命の希望があるということだ。
すべては『キャピタリズム(資本主義)』の問題なのだ。マルクス『資本論』と『共産党宣言』が示すプロレタリア革命を、国鉄決戦の勝利で切り開いていくのである。
「貧困、抑圧、隷属、堕落、搾取の総量は増大する。しかしまた、資本主義的生産過程そのものの機構によって訓練され結合され組織される労働者階級の反抗もまた増大する。……生産手段の集中と労働の社会化とは、それらの資本主義的な外被とは調和しえなくなる一点に達する。この外被は粉砕される。資本主義的私的所有のとむらいの鐘が鳴る。収奪者が収奪される。……人民大衆による少数の横奪者の収奪が行われる」(『資本論』第1巻24章)
「支配階級よ、共産主義革命のまえに震えあがるがよい! プロレタリアは、この革命において鉄鎖以外に失うものは何もない。プロレタリアが獲得すべきは全世界である。万国のプロレタリア、団結せよ!」(『共産党宣言』結語)
(大迫達志)