2009年4月20日

「禁じ手」発動はオバマの墓穴 世界大恐慌が本格化 島崎 光晴

週刊『前進』06頁(2388号4面1)(2009/04/20)

「禁じ手」発動はオバマの墓穴
 FRBの国債購入/「粉飾会計」も容認
 世界大恐慌がいよいよ本格化
 島崎 光晴

 世界大恐慌の震源地であるアメリカ経済は、実体経済でも金融でも一段と深刻な恐慌に陥っている。追い詰められたオバマ政権は3月末から4月初めにかけて、禁じ手の恐慌対策を次々に発動しはじめた。財政赤字の膨張と米国債発行の激増に窮して、FRB=中央銀行が米国債を買い取ることを決めたのだ。また、時価会計を緩和して金融機関が資産評価を勝手にやることを容認し、国家政策として粉飾会計を奨励した。二つの禁じ手を打ったことで、米帝の財政・金融など経済すべてに対する信用はますます崩れ、何よりもドルへの信認は崩壊していく。その意味で米帝オバマのこの恐慌対策は、世界大恐慌がいよいよ本格的に爆発していく画期をなす。

 第1章 自動車産業で過剰資本露呈

 第1節 一段と進む住宅バブルの問題!

 まず、住宅バブルの崩壊が一段と進んでいる。主要10都市の1月の住宅価格は前年同月比19・4%下落し、過去最大の下落となった。しかし06年春のピークからの下落率は30・2%にとどまっており、今後まだ何年にもわたって下落しつづけていくのは必至だ。
 住宅バブル崩壊で、住宅ローンを返せない人がさらに増大している。昨年10〜12月期には住宅ローンの延滞率は7・88%、差し押さえ率は3・30%と、ともに過去最高を更新した。二つを合計すると11・18%にもなり、全米の住宅ローンの約9件に1件で返済が行き詰まっている。
 また、同時期にサブプライムローンでは、両比率の合計が46・4%にも達した。サブプライムローンを組んだ人の半分近くが、住んでいる家からたたき出されそうになっているか、すでにたたき出されているのだ。詐欺まがいのやり方でサブプライムローンを押しつけ、あげくのはてに住む家からも追い出す。資本主義はもはや終わっているのだ!
 こうした住宅バブル崩壊を機に、実体経済は急降下を続けている。特に個人消費の柱をなす自動車販売台数は、2月には前年同月比41・4%減と、初めて4割を超えて減った。GMの1月初めから2月中旬までの北米での生産台数は、前年同期の3分の1にまで激減している。住宅ローンを借り増して自動車購入など消費に充てる、という従来の消費バブルが崩壊しているのだ。
 自動車販売激減で、GMとクライスラーは昨秋から米政府からの融資なしでは存続できなくなった。GMの08年通年の赤字は308・6億㌦(約3兆円)にも上り、08年末の債務超過額は861億㌦(約8・4兆円)にも膨らんだ。実質的には完全に破綻している。米政府は3月末までに、GM・クラスイラーへの追加支援について判断する予定だったが、GMには60日以内の再建計画見直しを求め、クライスラーには30日以内のイタリア・フィアットとの提携合意を求めた。問題の先送りにすぎず、両社が破産法を申請する危機が続いている。
 現在の大恐慌の基底をなしているのは過剰資本・過剰生産力状態であるが、それは自動車産業を最大実体としている。米・日・欧すべてがそうだ。アメリカの29年大恐慌も、自動車産業での過剰資本が最大実体だった。米自動車産業は1925年に、米製造業内で生産額、賃金支払い額、付加価値額、原材料費のいずれでも第1位となった。29年大恐慌では、自動車とその関連産業であるタイヤ・鉄鋼・石油などでの過剰生産能力が劇的に露呈した。
 第2次大戦後の帝国主義は、このアメリカ的生産力水準を平準化しつつ発展したが、74〜75年世界恐慌によって過剰資本状態に陥った。それ以降、IT化などと称しつつも結局は自動車を基軸とし頂点にした生産力水準を超えられないまま、現在の世界大恐慌に突入したのだ。29年大恐慌から80年を経て、またも同じ自動車産業を最大実体にして大恐慌に陥る。資本主義の生命力が完全に失われている、ということではないか!

 第2節 大銀行の救済に労働者の怒り

 金融面では、昨秋のリーマン・ブラザーズ破綻以降、大手銀行がますます実質破綻し、米政府が何波にもわたって公的資金の注入を繰り返すという惨状にある。
 2月末には米政府がシティ株の36%を保有することを決め、3度目の公的資金の注入に踏み切った。政府による株保有が50%を超えれば名実ともに国有化となるが、36%でも米政府が筆頭株主になる見通しで、事実上の政府管理下に置かれた。
 世界最大手の保険会社で昨秋に政府管理下に入ったAIGは、もっと破綻的だ。08年通年の赤字は993億㌦弱で、それ以前の22年間の利益合計(約991億㌦)を帳消しにするほど巨額になった。3月初めには4度目の政府支援を受け、AIGへの資本注入額は合計700億㌦と米金融機関で最高になった。AIGの株価は1㌦を割っている。ニューヨーク株式市場では1㌦割れが続くと上場廃止になるところだが、この基準を変更してまでAIGを延命させようとしている。
 このような銀行救済策に対し、米労働者階級の怒りが沸騰している。特にAIGの幹部社員に、1億6500万㌦もの賞与が支払われることが明らかになった。2月に成立した景気対策法では、公的資金の注入を受けた企業が支払う報酬に上限を設けたが、法案修正の過程で「過去にさかのぼって適用しない」という一文がオバマ政権によって追加されたためだ。
 これに対し3月19日には35州で「銀行を救済するな」のデモが闘われ、100万人以上が参加した。日本帝国主義も政府・日銀が大量の公的資金で大銀行=大資本を救済している。日本の労働者階級の怒りを爆発させよう。

 第2章 財政規律とドル信認崩壊へ

 このような大恐慌の進展に対して米帝オバマ政権は、ありとあらゆる恐慌対策を講じている。しかし、それが効を奏さないなかで、ついに禁じ手の対策に出はじめた。
 一つは、中央銀行であるFRBが米国債を買い取るという非常手段である。
 オバマ政権は2月に7870億㌦の景気対策、750億㌦の住宅ローン差し押さえ対策を決めた。両方とも効力はそれほどないにもかかわらず、財政赤字をますます膨張させている。昨年10月から始まった09会計年度では、3月までの半年間で財政赤字がすでに9567億㌦(96兆円)にもなった。前年の約3倍という過去最悪のペースだ。このため、09年の新規国債発行は2兆㌦に迫ると見られる。しかし、これほどの米国債が消化しきれるのか。もし米国債が国内外で買われなくなると、米経済は真の意味で崩壊する。
 このような切羽つまった状況のなか、3月18日にFRBは向こう半年で最大3000億㌦の米国債を購入することを決めた。ドル紙幣を発行する中央銀行であるFRBが、米国債を買い取るというのだ。
 ドル紙幣を印刷すれば、いくらでも米国債を買い取れることになる。財政赤字は野放しに膨れ、国債発行も無制限に増える。いわゆる「財政規律」が失われるのだ。また、実体経済とかけ離れて通貨供給量が増えるので、インフレの要因ともなる。だから、中央銀行としては戦時以外ではやってはならないこととされてきた。米帝も、第2次大戦下では長期国債をFRBが大量に買い支えたが、戦後の1951年にこれをやめている。それをまたやるのだ。
 没落する米帝には、巨額の財政赤字に耐える力など残っていない。「30年代ニューディール政策の時のような財政力、その基盤をなす生産力は今の米帝にはない」(本紙新年号島崎論文)。29年大恐慌と第2次大戦後の帝国主義の危機をのりきったような米帝の力量は失われている。逆に、その米帝の中心部が崩壊しているのだ。

 第1節 「有毒証書」は数兆㌦に達する

 もう一つは、4月2日に、米国の会計制度を仕切る米財務会計基準審議会が、金融機関の時価会計を緩めることを決めたことである。金融機関が保有する金融資産について、その評価額を時価ではなく、金融機関の勝手な見積もりで計算していいことにした。粉飾会計を認めるということだ。
 米金融機関は、住宅ローン担保証券などの価値が暴落したため、巨額の評価損にあえいでいる。米政府はこの不良資産を買い取ろうとしているが、それが証券化商品の形をとっているため、資産価格がまともに確定できないで立ち往生している。
 しかも、そこには「有毒証書(トキシックペーパー)」が混ざっている。バブル下ではインターネットを介した金融取引が増大し、電話での会話もなく、なんの書類もない取引が横行していた。このため、「記録がでたらめなためにその中身や所有者、価値や破綻リスクを確かめられない」ような証券化商品が膨大に生まれた(ニューズウィーク3月4日号)。所有者も価値もわからないのだ。
 文書の記録が不備なCDS(元利払い保証の金融商品)だけで1兆㌦、有毒証書は数兆㌦とも言われる。日本の銀行の問題債権は90年代のピークで100兆円だったが、有毒証書だけでその数倍にもなる。しかも、有毒証書は米大手銀行だけでなく、証券化商品を金融機関から買い取っているFRBにも入りこんだ。
 80年代以来の新自由主義による金融規制の緩和・撤廃は、このような恐るべき事態を生み出した。これほどまでに経済や金融が制御困難、解決不能となるのは資本主義史上初めてだ。最末期の帝国主義の延命策である新自由主義は大破産し、「有毒証書」のような“獅子身中の虫”を生み出して、資本主義を破滅させつつあるのだ。
 米帝にとってもはや万事休す。そこで、時価会計を緩めて粉飾会計を認めるという、最後の手段に出たのだ。シティはこれで金融商品6000億㌦について粉飾が認められるという。もともと時価会計は、企業・銀行の財務内容を透明にするために導入された。それをやめて、米大手銀行の財務内容を隠そうというのだ。しかもそれを、米金融システム、米金融機関、米金融商品のすべてに対する信用が崩壊している時に、やるというのだ。
 取り返しのつかないまでに、米金融のあらゆる面での信用崩壊が深まるに決まっている。しかも不良資産を隠せるとなれば、金融機関が不良資産を抱えたままの状態が長引き、大恐慌はより長期で手に負えないものになっていく。
 こうした財政と金融の両面での禁じ手によって、当面はしのげるかもしれない。しかし結局は、米経済のすべて、何よりもドルに対する信認を崩壊させ、大恐慌を促進することになるのは確実だ。米帝オバマは墓穴を掘ったのだ。

 第3章 階級戦争・侵略戦争と対決を

 このような中で米帝オバマは、労働者に対する階級戦争と、アフガン・イラクなどへの侵略戦争によって生き延びようとますますあがいている。
 米政府発表の3月の失業率は8・5%に悪化した。83年11月以来25年4カ月ぶりの高水準だ。昨年11月からは毎月60〜70万人規模という、29年大恐慌以来のペースで大量首切りが強行されている。特に自動車生産・販売の悪化が部品会社、ガラス、金属加工などの関連産業での首切りに波及している。
 GMなどビッグ3では、昨年末の政府融資を決める際に“労働組合がストライキを実施した場合、政府は融資を凍結する”との条項が盛り込まれていた。レイオフ中でも給料が受け取れる「ジョブズ・バンク」制度は、すでに廃止された。さらにGMは、UAW(全米自動車労組)が管理している医療保険基金への拠出金200億㌦について、その半分を株式に変更するよう強要している。株式などで支払われれば、ほとんど価値がなくなり、医療保険はつぶれてしまう。米帝は自動車産業の危機につけこんで、労働運動がかちとってきた労働者の権利を次々に奪い去ろうとしているのだ。世界の労働者の国際連帯闘争が切実に求められている。
 一方で米帝オバマは、バイアメリカン条項などの保護主義で帝国主義間争闘戦を強めつつ、アフガン・イラク侵略戦争をさらにエスカレートさせつつある。昨年12月の陸軍の新兵採用は目標を約15%上回ったという。大恐慌下でますます食っていけなくなった若者が、いやいやながら軍隊に入るしかなくなっている。階級戦争に対する闘いと侵略戦争に対する闘いは、その意味でも一つの闘いだ。
 労働者が生きていくには、資本主義・帝国主義を打倒する以外にない。アメリカ労働者階級を始めとする世界の労働者と連帯して、大恐慌をプロレタリア世界革命に転化するために闘おう。