2009年1月19日

書評 萩原進著『農地収奪を阻む』 北野牧夫

週刊『前進』06頁(2375号6面6)(2009/01/19)

書評 萩原進著『農地収奪を阻む』
 生き方そのものの迫力
 北野牧夫

 三里塚闘争とは何か、という問いに対する真っ向からの回答が本書にある。著者の思いのたけを投入して書かれたであろう燃えるような気迫が行という行にあふれている。三里塚を闘ってきた人も、これから闘おうとする人も、ぜひこの本を手に取りページを開いてほしい。読み始めれば、あっという間に時空をこえ三里塚闘争の緊張した「戦場」に吸い込まれていくに違いない。
 世界大恐慌と革命情勢の中でタイムリーな出版だ。三里塚闘争と本書の結論である、今や決戦中の決戦となっている市東孝雄さんの農地を死守する闘いへの渾身(こんしん)の決起を本書とともに呼びかけたい。
 本書の冒頭「刊行に寄せて」で、反対同盟の北原鉱治事務局長が的確に評しているように、本書は、「闘いつつ耕す農民として初めて三里塚闘争の真実を赤裸々に書き記した書」である。
 三里塚闘争を三里塚闘争たらしめた闘いの歴史が展開されている第1部の第1章「寝耳に水の空港計画」、第2章「権力の正体を見た」が、そもそも三里塚闘争とは何か、を理解する上で重要なところだと思う。

 第1章 市東東市さんの通夜の情景

 戦後の開拓農民の苦労、青年期の彷徨(ほうこう)、そしてシルクコンビナート計画が始まり、そこに著者は農民としての活路を見いだそうとする。当時の朝日新聞の記事が資料に掲載されている。
 萩原さんは、この計画のまさに中心的農村青年であったのだ。「多くの農村青年が『やる気になった』その夢をおしつぶした」「人生を泥靴で踏みにじられた怒りは半端じゃなかった」
 この三里塚闘争を、著者はなぜ闘ってきたのかというくだりを読むと、私には強烈な印象に残る場面がよみがえる。
 1999年1月、天神峰の市東孝雄さんの父、市東東市さんが亡くなった時の通夜。あらかたの弔問者も帰った後、萩原さんは正座し、孝雄さんとご家族全員に向かって話し始めた。なんとしても東市さんの遺志を継いでほしいという話であった。その時、話の初めに「シルクコンビナート……」という言葉が聞こえた。萩原さんは、とめどなく流れる涙をこぶしでぬぐいながら、自分のすべてをつくしてなぜ自分はこの闘いを闘ってきたのかを語ったのだ。孝雄さんを始めみな正座して、涙を流して聞いていた。
 その時、これが三十有余年の三里塚闘争だ、ひとりの人間の決意をここまで深く生み出した。三里塚闘争はすごい、と心底思った。
 萩原さんにとって、三里塚闘争は生き方そのものなのだ。第1部を読んでいて、その通夜の情景を思い出した。その時のような、自分のすべてを尽くして語っている萩原さんの迫力を感じた。
 第1章と第2章は、71年の歴史的大闘争へ至る単なる序章ではない。そこで三里塚闘争の原点が突き出されているのだ。

 第2章 権力との実力闘争の原点

 67年10月の外郭測量阻止闘争で、初めて機動隊と闘うことになる。
 「機動隊と対峙するのは生まれて初めてだった。映画のシーンのような経験だった。午前五時過ぎ、朝もやの中、森の中から突然湧(わ)いて出るように、黒々とした集団が麦畑の中をダーッと来る。一種異様だった。戦争で軍隊が攻めてくるような感じだ。こんなことが日本の中で許されていいのか」。こういう記憶は生涯を左右する。
 「機動隊は最初から暴力的だった」。農民は素手で血を流し必死に闘った。その三里塚に全学連が合流する。そこで「実力で闘う解放感」を味わう。青年行動隊は草刈りガマで武装する。「われらは武装した!」
 そして71年2〜3月の第1次、9月第2次の代執行阻止闘争という三里塚闘争前半の最大の闘いを闘うことになる。星野文昭同志が全学連を指揮して闘い弾圧を受けたのは、この第2次代執行闘争である。読む人をして緊張の冷たい汗を強制してやまない闘いの巨大なスケールの展開については本書に譲りたい。
 第2部は、いま二期工区敷地内で闘う市東孝雄さんの農地を、あろうことか農業を守るべく制定された農地法で奪おうとする空港会社の攻撃の背後に、日本帝国主義による農業切り捨て攻撃が進んでいることを二つの座談会をとおして鋭く暴露している。
 第3部は、動労千葉との労農同盟のきずなの形成史とその革命的意義を、中野洋前動労千葉委員長との対談で明らかにしている。今日の新自由主義の全面的な破綻と世界金融大恐慌への突入という中で、きわめて先見の明ある対談になっている。何よりも「今日」を理解するために必読だ。
 77年、動労千葉はジェット燃料輸送阻止闘争をストライキで闘い、4人の解雇者を出した。韓国・民主労総の労働者は、「農民のために解雇者を出して闘う労働組合があるんですね」と驚き、動労千葉を称賛した。
 労働者階級は、資本主義・帝国主義がもたらした一切の社会的諸矛盾の根本的な解決をかけて、プロレタリア革命の完遂に、本当に責任をとりきらなければならない。ここに、労働者階級自身の解放だけでなく、農民を始めすべての勤労諸階級人民の生活と未来の一切がかかっているからである。動労千葉は、ジェット闘争でそういう労働者階級の革命的立場を必死に貫き、魂のこもった労農同盟をうち立てた。

 第3章 青年・学生に読んでほしい

 そして最後に著者のマニフェスト「労農同盟で世の中を変えよう」。最終章を飾るにふさわしい感動的な宣言となっている。「労農同盟は第二義的なものではない。革命にとってなくてはならない不可欠の同盟だ」
 三里塚闘争44年の歴史は、まさに巨大な階級闘争である。青年労働者・学生の年の倍の「昔」から三里塚闘争は始まった。本書は、これら青年労働者と学生に読んでもらう意図からか、実に丁寧な解説、注が施されている。感謝に堪えない。