2009年1月 1日

後のない大恐慌 GMとシティが破綻 輸出減で崩壊する日帝経済 島崎光晴

週刊『前進』12頁(2373号8面1)(2009/01/01)

1929年超える後のない大恐慌
 GMとシティが実質上破綻 輸出減で崩壊する日帝経済
 島崎光晴

 「最後のよりどころだった米住宅バブルも限界に達しつつある」(本紙03年新年号)と指摘してから丸6年。世界金融大恐慌は、今や刻々と激化し、進行速度も速くなっている。アメリカ経済の屋台骨をなすGMなど自動車企業とシティグループなど大銀行が実質破綻し、国家資金でなんとか生き延びるという史上例のない危機に至った。日本経済は輸出激減により、自動車を頂点にして全産業が急速度の生産低下に陥りつつある。全世界で首切り・賃下げが労働者階級に襲いかかっている。大恐慌がさらに進んでいく時、数十%もの大失業に見舞われる。もはやプロレタリア革命以外に、労働者階級は食うことも、住むこともできない。きょう明日の問題として、世界革命が現実的課題となる時が来たのだ。

 第1章 果てしない公的資金投入

 09年は、米経済の根幹をなす自動車産業と金融業が一段と崩壊し、財政赤字が破滅的に膨張してドルが大暴落する年となる。
 昨秋、米自動車ビッグ3のうちGMとクライスラーは実質的に経営破綻し、国家による救済以外に生きられなくなった。GMはすでに600億㌦(5・4兆円)もの債務超過状態だ。しかもGM株価は11月に2・52㌦と、1942年以来66年ぶりの安値となった。これでは銀行からの新たな借り入れもできない。一方、11月の新車販売台数はGMもクライスラーも前年同月比40%以上もの激減となり、売上収入も減った。7月には日本車8社合計の米新車販売台数がビッグ3を初めて超え、日米争闘戦での劣敗が売り上げ減少を促進した。このため、08年内の短期的な資金繰りに窮するまでに至った。
 いわば「自動車バブル」が崩壊したのだ。バブル下では住宅ローンを借り増して、そのカネで自動車を買うスタイルが横行した。住宅バブルが崩壊すると自動車バブルも崩壊した。09年の米新車販売台数は、ピークだった00年の1740万台から500万台減る見通し。日本一国分の需要が消え失せる衝撃となる。09年の自動車の生産設備稼働率は、採算の取れる70%台後半を割り込んで60%台に落ちこむ見込みだ。
 自動車産業は米帝の最大の製造業であり、基幹産業をなす。その自動車がバブル下で生産力を増大させ、バブル崩壊によって過剰な生産力を抱え実質破綻した。29年大恐慌の時とまったく同じだ。当時、生産能力が最も過剰になったのは、自動車とその関連産業である鉄鋼・石油・ゴム・ガラスだった。自動車の設備稼働率は29年の85%から31年には35%に、製鋼の稼働率も29年の89%から32年の19%に急低下した。それから80年へた今、再び同じ自動車産業を最大実体として大恐慌に突っこんでいるのだ。
 自動車の生産・販売を軸にして労働者を搾取し収奪するという点で、この60年間何も変わっていない。あげくの果てに、また再びの大恐慌なのだ。「帝国主義(資本主義)体制は、歴史的命脈が尽き、社会の発展の桎梏(しっこく)となった」(中野洋著、新版『甦る労働組合』)ということではないか。
 さらに、自動車バブルと同時に米個人消費全体も崩壊しつつある。①住宅を担保にした借金で消費するというあり方が終わっただけではない。②米家計の資産のうち4割もが株式と投資信託であり、株安になると消費は落ちる。③しかも、金融機関が貸し渋りを強めており、消費者ローンを組めなくなっている。④従来はさまざまなローンが証券化され、それによってローンが無制限に拡大してきたが、証券化の市場が総瓦解(がかい)したため消費関連のローンもストップしている。
 ②③④のいずれも、9・15リーマン破綻後の金融恐慌の深まりによって、一気に進んだ。こうしたいくつものルートから、金融恐慌が実体経済を急降下させている。

 第1節 米財政超悪化しドル暴落へ

 金融面でも、実質的に破綻した米金融機関に巨額の公的資金の投入が繰り返されているが、新たな損失が次々に発生しており、金融恐慌が深まっていかざるをえない。
 米トップバンクであるシティはついに、公的資金によってしか存続できなくなった。シティの07年夏からの損失額は670億㌦(約6兆円)にも及び、07年10月から1年間の累計赤字は約200億㌦(1・8兆円)を超えた。株価は11月には4㌦を割り、放置すればリーマンのように破綻しかねなくなった。
 これに対し米帝は10月と11月に2回にわたって総額520億㌦(約4・7兆円)もの資本注入を行った。個別の金融機関としては過去最大の公的資金の投入だ。また、シティの不良資産について損失が発生した場合、政府が3000億㌦(27兆円)の保証をすることも決められた。米証券会社(投資銀行)大手5社のうち3社は破綻、残る2社は経営形態を銀行に変えて存続したが、その巨大銀行自体も実質破綻し始めたのだ。
 しかし、いくら公的資金を投入しても、米銀の不良資産・不良債権は増えつづける。①そもそも銀行の資産は証券化されている上、その市場価値が暴落しつづけており、どこまで不良化しているか査定すらできない。損失がわからないまま当てずっぽうで資本注入しているにすぎない。②銀行本体の帳簿についていない子会社の投資専門会社に、隠れた不良資産が山ほどある。シティだけで簿外資産は1・2兆㌦(108兆円)にも及ぶ。③住宅価格は延々と下落しつづけており、住宅ローン関連の損失は果てしなく膨らむ。また、企業買収ローンやクレジットカードなどの消費者ローンでも不良債権が急増していく。
 現に、9月に公的資金で救済された住宅公社2社(ファニーメイとフレディマック)と保険最大手AIGに対して、2カ月もたたない11月に再び公的資金が投入された。再投入の公的資金枠は、前者が8000億㌦(72兆円)、後者が1525億㌦(13・7兆円)と途方もない額だ。まさに“バケツの水漏れを直さずに水を注ぐようなもの”だ。シティなど米銀すべて、住宅公社2社、AIGのことごとくが“ブラックホール”と化している。日本の不良債権がまがりなりにも処理できたのは、当時、米経済がまだ存続していたからだ。ところがその米経済が崩壊しはじめたのだから、これを下支えするものなどどこにもない。
 オバマ次期政権は、景気・雇用対策に巨額の財政資金を投入しようとしている。それは、財政赤字を破滅的に膨らませるだけだ。08年度の財政赤字は4548億㌦(約41兆円)と過去最高となったが、09年度はその一ケタ上の1・2兆㌦(108兆円)に急膨張する見通しである。こうなるともうドル暴落を食い止められない。
 “29年恐慌の時のように今回もまたなんとかなる”などというのは幻想だ。30年代ニューディール政策の時のような財政力、その基盤をなす生産力は今の米帝にはない。米帝は結局、他帝国主義との争闘戦を強めつつ、労働者の大量首切りと大幅賃下げによって延命しようとあがきにあがくしかない。
 今や米資本主義を代表する大企業・大銀行が実質破綻し、国の資金でかろうじて生き延びているにすぎない。資本家の時代は終わった! 自動車産業も金融業も職場を動かしているのは労働者だ。資本として自力で延命できないというのなら、労働者が生産を管理すればいい。ブルジョア国家による資本救済ではなく、労働者が国家権力を握って経済を統制すればいいのだ。
 かつて1917年、ロシア労働者階級は第1次大戦下の経済的破局に対し、「全権力をソビエト(労働者評議会)へ」のスローガンのもと、自ら工場を管理し10月革命に攻め上った。大恐慌下での経済的破局と生活の困窮に対しては、同じようにプロレタリア革命以外にどんな出口もない!

 第2章 全産業で減産とリストラ

 09年は日米欧すべてがマイナス成長に陥り、世界金融大恐慌がさらに爆発していくのは必至だ。
 何よりも、今後も世界的な信用収縮が深まり、金融恐慌が繰り返し起きる。リーマン破綻以降、全世界で銀行間、銀行・企業間の資金取引が停止したままだ。資金を出しているのは各国中央銀行ぐらいである。09年は、イギリスなど欧州諸国の金融危機が本格的に噴出し、それが世界金融大恐慌を促進する。全帝国主義が恐慌対策として公的資金の大々的な投入に踏みこんでいるが、それは財政危機を爆発させることにしかならない。
 また、全帝国主義国が「ビッグ3発自動車恐慌」(ニューズウィーク紙12・3付)に見舞われている。09年の自動車販売は「完全な崩壊」に陥る。世界の自動車産業はガソリン・保険・整備などの関連産業を含むと年600兆円の市場規模を持ち、世界のGDP合計の1割を超す。それが崩壊していくのだ。
 さらに、中国バブルの崩壊が世界経済に新たな激震を与える。帝国主義にとって、商品・資本の輸出市場としての中国が消失するだけではない。中国は巨大な過剰設備を背景に輸出に打って出ることで、世界経済に破壊的な作用を呼び起こす。また、中国は巨額の米国債・米住宅公社債を保有しており、その動向次第で国際金融が大激変する。

 第1節 財政破綻したまま大恐慌に

 そして何よりも日本経済は、帝国主義の中で「最も弱い環」としての姿をさらけ出している。すでに08年4〜6月期、7〜9月期と2四半期連続でマイナス成長となった。10〜12月期の鉱工業生産は前期比マイナス8%と、戦後最大の減少率となる見込みだ。かつてのどの恐慌や不況と比べても激しい急角度の生産低下の真っただ中にある。
 日本経済はバブル崩壊後の恐慌を輸出によって乗り切ってきたからこそ、輸出の総崩れで大打撃を受けている。02年に年間50兆円だった輸出は07年には79兆円と1・6倍にも膨らんだ。02年1月以降の景気浮揚局面のGDP成長率の6割が輸出による。ところが米バブルが崩壊、中国バブルも崩壊した。米欧向け輸出が激減し、その不振を補ってきたアジア向け輸出も10月には減少に転じた。このため8月、10月と日本の貿易収支が赤字に転落するまでになった。
 輸出減少で最も影響を受けているのは自動車産業だ。自動車の売上高に占める海外の割合は68%にもなった(08年3月期)。今や、米・中バブル需要に依存して輸出を増やしてきたツケが回ってきているのだ。これに円高が追い打ちをかけている。12月に入って1㌦=88円と、95年以来の円高ドル安になった。トヨタはこの円高水準が1年間続くと、4400億円もの減益要因となる。
 トヨタは在庫を持たない生産方式をとっており、減産が一気に下請け企業への発注激減となっている。しかも、日本経済は自動車を頂点にした産業構造になっているため、自動車の減産は鉄鋼・化学・工作機械・半導体・運輸など全産業に波及する。
 また金融面でも、株安による損失や貸出先の倒産などで6大銀行は08年9月中間期決算で合計1兆円もの損失を計上し、貸し渋りを強めている。
 さらに財政面では、自民党は12月初めに、小泉時代に策定した「骨太方針06」の歳出削減路線を事実上凍結することを決めた。日帝は、財政破綻したまま大恐慌の中に投げこまれ、再び歳出拡大に舵を切るという破滅的なコースを強いられている。日帝の民営化・道州制導入攻撃は、そうした絶望的な危機に駆り立てられたものだ。
 すでに派遣労働者の削減に始まり、労働者の大リストラと賃下げの嵐が吹き荒れている。09年には正規労働者も含めた大量失業が一挙に現実化していく。29年大恐慌がそうだったように、大恐慌というのは何十%もの失業を引き起こす。「生きさせろ!」ゼネストが全労働者の死活的な欲求となる時がきたのだ。

 第3章 新自由主義政策の大破産

 現在の世界金融大恐慌は、29年大恐慌を上回る資本主義史上で最大で後のない恐慌である。自律的回復など絶対にない。29年大恐慌をニューディールや第2次大戦突入で乗り切ってきた現代帝国主義は、70年代に歴史的に行きづまり、新自由主義に転換して生き延びてきたが、それが大恐慌に行き着いたのだ。新自由主義が破産してしまえば、後は何も残らない。
 具体的にみると、米住宅バブルとそれによる米消費バブルは、史上最大のバブルだった。しかも、住宅だけでなく商業用不動産ローン、企業向け貸し出し、個人向け自動車ローン・消費者ローンなどすべての信用がバブル化していた。さらにバブルは、英国を始めとした欧州、そして中国と全世界に拡大してきた。資本主義史上このようなことは一度もない。それが総崩壊しているのだ。
 また、いったんバブルが崩壊し始めると制御不能となる“時限爆弾”がまき散らされた。それが債権の証券化だ。住宅ローンを始め企業買収ローン、クレジットカードローンなどあらゆるローン債権が証券化されてきた。特に深刻なのは、CDS(クレジット・デフォルト・デリバティブ)だ。債務不履行となった場合にそれを保証する金融商品である。CDSで保証を受けている総額は01年の約1兆㌦から07年末の約60兆㌦(5400兆円)に激増した。それほど債務不履行は起きないとの前提があった。しかし今や債務不履行が大規模に始まっている。5400兆円もの保証などできるわけがない。
 09年はこのCDS危機が爆発し、「サブプライム問題は公園の散歩のようだったと思えるようになるだろう」(チャールズ・モリス著『なぜアメリカ経済は崩壊に向かうのか』)。あくなき資本家的利益を追求する資本主義は、債権の証券化という究極にまで行き着いて、ついに自滅するほどの危機に至ったと言える。世界革命で資本主義を転覆する時が来たのだ。
 バブルが崩壊した今、借金による米家計の過剰消費、その米国への輸出で成り立つ世界経済という構図も吹っ飛んでいる。米帝は、米国債や住宅公社債を国外に売って経常赤字(貿易赤字など)を穴埋めし、国内での借金による消費を維持し、さらに国外からの資金を米金融市場で増殖し、再び国外に投資して高利益をせしめてきた。これらの資金流入・増殖・流出を担ってきたのが米証券会社であり、資金流入・増殖・流出の回転台こそ米金融市場だった。こうした構図の中でこそ、米住宅バブル・信用バブルも起きた。また、こうした構図がドルを基軸通貨として存続させるものとなっていた。
 今や、この全構図が崩れつつある。80年代以来の米家計の過剰消費が終わり、世界経済は底が抜けている。それに取って代われる国はない。同時に、ドルも大暴落する。ユーロが代わって基軸通貨になるわけでもない。世界経済は、ドルが無価値になり、基軸通貨が不在になるという、29年大恐慌の時にもなかった前例のない破滅を迎える。
 このような史上最大で制御不能なバブル、米家計の過剰消費とそれによる世界経済の延命という80年代、90年代以来のあり方をもたらしたのは、ほかならぬ新自由主義政策だ。新自由主義は労働者階級に対する階級戦争を本質とするが、経済的には特に29年大恐慌後に制定された金融規制を完全に撤廃した。その結果は金融バブルのとめどない膨張だった。同時に、この新自由主義政策はグローバリズム(地球大化の戦略)とも結びついて、ドルを基軸通貨として維持しつつ、米家計の過剰消費をも成り立たせた。こうした新自由主義の満展開こそが結局は、今の世界金融大恐慌を引き起こしたのだ。

 第1節 労働者は団結強化し闘おう

 この新自由主義は、29年大恐慌から第2次大戦後にとられてきた国家独占資本主義政策が70年代に歴史的に行き詰まったことを背景にしている。29年大恐慌とニューディール政策→第2次大戦後の国独資政策→70年代のその行き詰まりと破産→80年代以来の新自由主義→その破産と世界金融大恐慌、と進んできたのである。20世紀、21世紀のこの流れでみると、現在の世界金融大恐慌が、29年を上回る後のない大恐慌であることが明白となる。
 09年は日ごとに大恐慌が進む年となる。それは同時に、革命的情勢が日ごとに成熟していくことを意味する。「労働者を軽んじ、蔑視する考えに取り込まれない限り労働者は必ず勝てると確信している」(前出、新版『甦る労働組合』)ということだ。この確信に燃え、09年を世界革命—日本革命の勝利を開く年としよう。