2008年12月15日

書評『農地収奪を阻む』 説得力ある労農連帯の展望 反対同盟顧問弁護団事務局長 葉山岳夫

週刊『前進』06頁(2372号5面3)(2008/12/15)

書評 『農地収奪を阻む』 三里塚反対同盟萩原進著
 決戦へタイムリーな出版
 説得力ある労農連帯の展望
 三里塚芝山連合空港反対同盟顧問弁護団事務局長 葉山岳夫

 三里塚芝山連合空港反対同盟顧問弁護団の葉山岳夫弁護士から萩原進著『農地収奪を阻む』の書評が寄せられました。(編集局)
 三里塚芝山連合空港反対同盟事務局次長萩原進さんの著書『農地収奪を阻む 三里塚農民怒りの43年』が編集工房朔から2008年秋出版された。まさにタイムリーな出版であり、三里塚空港反対闘争の現時点での最大の焦点である市東孝雄さんの農地収奪に対する反対同盟の闘争宣言というべき著書である。
 萩原さん、市東さんは08年10月5日の現地集会、11月2日の労働者集会で農地死守の宣言を発した。三里塚には決戦が迫っている。自公政権と成田国際空港会社は2002年、恥ずべき2180㍍の`B(Bダッシュ)暫定滑走路を強行開港した。
 これは当時、黒野匡彦空港会社社長が謝罪文の中で認めるように、地元住民の同意なく、東峰地区住民に騒音と恐怖を加え、人間の尊厳をも侵害するもので、地上げ屋的手法による東峰地区、天神峰地区の農地強奪を狙った違法滑走路建設攻撃である。地元住民に騒音、排気ガス、恐怖をまき散らす、安全無視の欠陥空港である。
 この違法きわまる`B暫定滑走路をさらに北側に延伸して2500㍍にする工事を2010年で強行しようとしている。
 成田空港は2006年発足したアジア・ゲートウェイ戦略会議において、アジアに対する帝国主義的輸出入の戦略的拠点に位置づけられるとともに、羽田東京国際空港の一層の国際空港化によって空港会社は地盤沈下の恐怖にかられ、駆り立てられ、切羽つまって、市東さんの農地収奪、天神峰現地闘争本部の建物収去、明け渡し攻撃を裁判所を使ってしかけてきた。
 1993年政府・公団は、かねて反対同盟が主張していた土地収用法による事業認定の期限切れを事実上認めて収用裁決申請を取り下げ、事業認定は失効し、`B、C滑走路を含む2期工事区域について土地収用法による強制収用は不可能となった。国家権力と一体化した空港会社は、農民の土地を強制的に収奪することが憲法29条3項によって許されなくなったにもかかわらず、農地法を悪用し、千葉地方裁判所を収用委員会化して市東さんの農地、天神峰の現闘本部を民事裁判の形をとって収奪しようとしている。
 国家権力、空港会社、千葉県は、敷地内反対同盟の拠点的農民市東さんの農地の収奪、農民殺し、反対同盟つぶしの攻撃をしかけてきているものであり、この攻撃を阻止、粉砕することは、全人民的課題である。

 第1章 三里塚闘争勝利の武器に

 この農地収奪攻撃粉砕の闘いにとって、本書は必読の書である。
 「刊行に寄せて」で北原鉱治事務局長は、「国家権力との闘いを貫いて国際連帯を開くに至った三里塚の闘いの真価を示す貴重な書である」と評価し「三里塚の農民闘争は今、新たな闘いの正念場にあることを労働者・農民・学生の皆さんに知っていただきたい」と訴えている。
 萩原進さんは「第1部・闘いは大地と共に」で、反対同盟の現地闘争の歴史を画期的な事件を取り上げてまとめ的確に解明している。両親による御料牧場の開拓、シルクコンビナート事業への没頭と空港建設計画による理不尽な一方的中止、これに対する全身全霊をあげての憤りが空港反対闘争の原点であることが明確に語られている。
 「国の政策でそう来るのなら、百姓をやってやろうじゃないかと思った。徹底して百姓をやって空港建設に反対しようと」
 緊急動員した200人による御料牧場閉場式粉砕闘争への決起とその成功、全国指名手配、人違いの誤認逮捕、その後の戸村一作委員長をはじめとする39人の被告による第1次統一公判闘争。第2次代執行阻止闘争での大木よねさん宅地下壕戦、東峰十字路9・16闘争をはじめとする第2次代執行阻止闘争を通じての「同盟の団結さえ崩されなければ強制収用は二度とできない」という揺るぎない確信の獲得。労農連帯において反対同盟と車の両輪の関係にある動労千葉によるストライキ決起を中心としたジェット燃料貨車輸送阻止闘争とそれへの連帯闘争、およびその中での「ハンドルを武器」にした闘いの理解と連帯。
 83年3・8分裂を通じての空港絶対反対の反対同盟の形成。2002年暫定開港と市東さんへの悪辣(あくらつ)な攻撃への激しい糾弾。これらを通じて一貫した論理で、農民殺し、農業つぶしで襲いかかる帝国主義に対して71年を上回る労働者人民の全国闘争を呼びかけているところに強烈な迫力と説得力がある。
 「第2部・崖っぷちの食と農」では、坂本進一郎さん、小川浩さんとの座談会「日本の農業と三里塚」の中で、新農政は農業つぶし、「トヨタ」を守るために農民をつぶすことに対する労働者との連帯した闘いの必要性、三里塚はコミューンだと熱く語られている。
 市東孝雄さん、鈴木謙太郎さんとの座談会「産直農家はこう考える」では、戸村委員長による「農民のコンミューンとしての共同体は可能か」を評価して、産直農業が反対同盟の団結と共同性を守ることが語られ、毒饅頭(まんじゅう)としての成田用水が断罪されている。
 「第3部・三里塚労農連帯の地平」での動労千葉前委員長、現常任顧問の中野洋さんとの対談「反対同盟と動労千葉の絆」はまさに圧巻である。労農連帯の質と内容が力強く説得力をもって迫ってくる。
 そして、「労農同盟で世の中変えよう」では市東さんの闘いへの訴えとともに、世の中を変える主人公は労働者だ、労働者の同盟軍として農民は存在している、労農コミューンを作り出そうと熱く叫ばれている。
 本書でも指摘されているように、今や世界金融大恐慌によって最末期帝国主義である新自由主義は崩壊しつつある。資本家階級は労働者、農民にすさまじい犠牲を強要して乗り切ろうとしている。三里塚闘争は新自由主義打倒の闘いの重要な一環である。新自由主義打倒、三里塚闘争勝利のため本書を武器として活用されることを訴える次第である。