2008年12月15日

〈焦点〉 権力抗争めぐり激動するタイ 労働者階級の登場こそ鍵

週刊『前進』06頁(2372号3面5)(2008/12/15)

〈焦点〉 権力抗争めぐり激動するタイ
 労働者階級の登場こそ鍵

 11月25日、タイの「民主主義市民連合(PAD)」は、それまでのソムチャイ政権打倒の行動を首相府占拠からバンコク国際空港占拠へと転じた。新旧二つの空港占拠は企業関係者や観光客を直撃、国際便を使った野菜などの農産物輸出、機械部品輸送に大きな打撃を与えた。
 こうした中で、タイの憲法裁判所は12月2日、選挙違反を理由として「国民の力党」など与党3党に対して解党を命令し、首相ら3党幹部の5年間公民権停止の判決を言い渡した。ソムチャイ政権は崩壊し、PADによる空港占拠は解除され、PADによるタクシン派政権打倒行動は終了した。現在次期組閣をめぐって、タクシン派と野党民主党の間で政権をめぐる連立多数派工作が続いている。
 タクシンは2001年に政権につくや、危機にあったタイ経済に外資導入を積極的に進め、規制緩和、企業誘致など日帝をはじめとした帝国主義の新植民地主義的支配を圧倒的に進めた。大規模公共投資をすすめ、また農村への1村1製品運動、健康保険制度整備などで農民層・貧困層の支持をとりつける一方、不正蓄財の摘発、麻薬撲滅、強権政治を進め、旧来の社会関係を変えていった。帝国主義資本を優遇し、伝統的な支配層から利権を奪って新権力層を形成していったのだ。
 PADは、タクシン政権時代にこうして実権を奪われた旧勢力層、都市中間層などと、06年に軍事クーデターを行った国王を中心とする軍部、警察、司法などの旧体制護持勢力を代表したものである。その「民主主義」概念は、王制の下での政治、「国会議員の一定数は国王の指名によるべき」「選挙で選ばれた多数議員を背景とした議会の横暴を許さない」というもので、政治的主張として進歩的なものではないことを確認しておく必要がある。
 8月以来のPADによる首相府占拠などの一連の動きの本質は、タイにおける新旧の支配層をめぐる政権争いである。重要なことは、学生や労働者階級がこの政治危機のなかでどういう動きを開始していくのかということだ。
 PADの運動が都市中間層によるものであれ、王制政治を求める「官許」の運動としてであれ、4カ月に及ぶ首相府占拠、数千人規模の連日の大衆的動員が作り出した政治的自由の経験、大衆闘争の雰囲気、そして2度にわたる大衆包囲を背景とした政権の打倒という政治的意味は大きい。政治主張としての旧勢力的反人民性にもかかわらず、その意図を超えて、人民の大衆的力、行動による政治決定という経験が、一つの歴史的意味をもっているからである。
 世界恐慌の荒波がタイ経済を襲い、学生革命などの経験をもつタイにおいて、労働者階級の決起が大きく始まることは間違いない。その時こそ、大衆闘争の力と経験は重要な歴史的意味をもって真に階級的な意味で威力を発揮し、日帝をはじめとする帝国主義の新植民地主義支配と王制・軍部を軸とした旧支配層もろともうち破るであろう。