非正規雇用の切り捨て急増 日帝経済 最大の危機に突入 島崎 光晴
非正規雇用の切り捨て急増
日帝経済 最大の危機に突入
“生きさせろ”のゼネストを
島崎 光晴
米住宅バブル崩壊を機に世界金融大恐慌が現実化するなか、日本経済もついに不況に突入した。過去6年間の景気浮揚期に輸出依存度を高めた日本経済は、輸出の減退によって日本現代史上で最も深刻な危機に陥り始めた。不況への突入により、日帝の経済・財政の基本戦略である「財政再建」計画は完全に破産した。また、7月を転機にして資本家階級は非正規雇用を大規模に切り捨て始めた。すでに生きていけないほど賃金が下げられてきたが、不況への突入とともに一段の賃下げと物価高騰が襲いかかろうとしている。「生きさせろ」の賃上げゼネストへ、11・2労働者集会になんとしても1万人結集をかちとろう。
第1章 輸出も海外投資も瓦解へ
第1節 マイナス成長
日本経済は07年秋をピークに不況に突入し、今や急坂を転げ落ちつつある。鉱工業生産は1〜3月期、4〜6月期と2四半期連続で低下した。特に6月は、97年11月以来の全業種での生産低下となった。97年11月というのは、北海道拓殖銀行や山一証券が破綻し、金融恐慌が始まった時だ。その時以来の広範囲な生産低下である。このため4〜6月期の実質成長率も2・4%(4%に改定の見込み)のマイナスに転じた。
また、ユーロ圏15カ国の4〜6月期の実質成長率も0・8%減と、99年の通貨統合以来初めてマイナスとなった。世界金融大恐慌が米日欧の全帝国主義国での不況化という、新たな局面に入ったのだ。
日本経済は02年2月から若干、浮揚してきた。とはいっても、約6年間の実質成長率は年平均2・2%で、80年代後半のバブル期の5・4%の半分以下だ。しかも、そうした微弱な景気浮揚は、労働者を徹底的に犠牲にすることで成り立っていたにすぎない。
何よりも大企業は、労働者の非正規雇用化、そして賃下げ、長時間労働、合理化によって利益を絞りだしてきた(『共産主義者』155号・島崎論文24㌻〜参照)。企業の経常利益は06年度には54兆円と、過去10年間で倍増した。一方、雇用者報酬の総額は97年から05年の間に23兆円も減った。額を比べると、雇用者報酬の減額分がほぼ企業利益の増加分に相当する。
賃金を削って、大企業は利益を伸ばしてきたということだ。小泉「構造改革」を始めとする新自由主義政策が、これほどの極限的な搾取を許してきた。
さらに、02年からの景気浮揚は、輸出増加に支えられていた。約6年間の実質成長率への輸出の寄与度は約6割で、戦後の景気浮揚局面では最高だった。07年下半期には輸出額が、戦後初めて民間設備投資額を上回った。輸出というのは海外市場を荒らし回るということだ。しかも資本家どもは、輸出のために「国際競争力の強化、生産性の向上」と称して、労働者をますます搾取・収奪してきた。
こうした輸出増加によって、日本経済は従来以上の輸出依存構造に様変わりした。製造業の売上高に占める海外の割合は08年3月期には過去最高の45・3%にもなった(表参照)。売り上げのほぼ半分近くが海外市場なのだ。特に自動車では海外売上高の比率が68%、電機では50%に上った。食品や日用品など内需型企業も海外依存を強めた。
第2節 企業減収減益
しかし今や、この景気浮揚は終わった。何よりも輸出が減退し始めたからだ。対米輸出は07年9月に、EU向け輸出は08年5月にマイナスに転じた。輸出全体も6月についにマイナスとなった。このため、上場企業の経常利益は1〜3月期、4〜6月期と2期連続して減益に落ち込んだ。特にトヨタの4〜6月期の純利益は前年同期比28%減となり、四半期ベースで初めて減収減益となった。利益の約5割を稼ぎだしてきた北米では、営業利益が前年比でなんと半減した。
しかし、こんなもので済むわけがない。米経済が急下降するのはこれからだ。今は、対米輸出の減退を対アジア輸出の増加によってしのいでいる。しかし、すでに中国バブルが崩壊し始めており、対アジア輸出も崩れていかざるをえない。
97年以降の恐慌を輸出依存で脱却した結果、輸出が行きづまると日本経済全体が瓦解する構造になっているのだ。。29年大恐慌下の「昭和恐慌」や、97年からの恐慌をも超える、日本現代史上で最大の経済危機となるのは確実だ。トヨタを始めとする自動車資本を筆頭に、日本の資本家どもは恐るべき危機に見舞われるのだ。
第3節 資源高が直撃
しかも単に輸出がダメになるだけではない。安い原材料・資源を輸入し製品に加工して輸出する、という加工貿易型の経済構造自体が成り立たなくなっている。今の石油・資源の価格高騰は、直接には投機資金や投資資金の流入が原因である。しかし、石油・資源をめぐる帝国主義間・大国間の争奪戦が激化し、グルジアに見られるように戦争にまで至っていることが背景にある。だから、石油・資源高は短期に終わるものではなく、中長期的に続くと見るべきだ。
日帝は自前の資源を持たず、商取引で資源を安く買って加工貿易型構造を築いてきたが、そんなことはもはや通用しない。イタリアですら準石油メジャーを持っているが、日帝には何もないに等しい。資源なき日本経済などひとたまりもない。
日本経済は一方で、企業の海外投資を増やし、その収益に依存する傾向を強めてきた。海外の子会社からの利益や、海外の株式・債券への投資による配当や利子所得だ。海外投資収益の増加で、国際収支上の所得収支黒字は貿易黒字を上回っている。05年度から3年間もそれが続いている。モノを輸出するだけでなく、それ以上にカネ=資本を輸出して稼ぐ構造なのだ。
ところが、この海外投資もまた日帝の弱点に転化しつつある。米国での自動車の現地生産は、GMなど米ビッグ3の経営危機を引き起こしており、対日保護主義が再燃するのは必至だ。一方、中国での生産も、賃金の急上昇で超低賃金体制が崩れているため、暗礁に乗り上げつつある。
このように日帝は輸出、資源、海外投資のいずれでも歴史的な行きづまりにぶつかっている。かといって、これらを維持できるような権益や勢力圏など持っていない。30年代のように世界経済がブロック化していけば、輸出、資源、海外投資のすべてが一瞬にして吹っ飛ぶ。WTO交渉の決裂は、その現実性を示す。日帝はいよいよ”帝国主義の最弱の環”に転落するのだ。
日帝が改憲攻撃を強めながら侵略戦争に踏み出しているのは、こうした危機を戦争で突破しようとしているからだ。帝国主義の戦争に対する労働者の唯一の回答は、「万国の労働者、団結せよ」である。このスローガンで11・2労働者集会を闘いとろう。
第2章 骨太Ⅵの財政再建は破産
日本経済の不況突入はまた、日帝の「財政再建」戦略を大破産に追い込んでいる。
日帝は97年からの恐慌に対し、大銀行・大企業を救済するため国債を増発して巨額の政府支出を行った。その結果、国債発行残高のGDP比が151%と、第2次大戦末期の44年の147%を上回るまでにいたった。敗戦直前の時よりもひどい状態なのだ。
日帝はなんとか財政を再建しようとあがき、06年の「骨太方針」で「2011年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字にする」と決めた。この基本戦略にそって、民営化や道州制の攻撃を仕掛けてきた。
しかし、この国家戦略は完全に破産した。それは、世界金融大恐慌と日本の不況化によって日帝の税収プランが崩れたからだ。また、社会保障制度・医療制度の改悪に対する労働者人民の怒りが噴出しているからだ。
このため、財政再建計画に固執する福田と、一定の景気刺激策を唱える麻生幹事長および公明党とが対立し始めた。8月末の政府の経済対策には所得税などの定額減税(08年度内実施予定)が盛り込まれた。もはや国債増発は避けられなくなった。政府は明示には認めていないが、これで「11年度プライマリーバランス黒字化」が不可能となったのだ。日帝の経済・財政に関わる最も基本的な国家戦略が破産したのだ。福田辞任の最大のきっかけはここにある。
これほどの大破産のなかで日帝はますますあがき、民営化、社会保障解体、究極の民営化である道州制の導入を一段と進めようとしている。どれほどほころびようと、資本家階級には新自由主義攻撃以外にない。
すでに経済・財政の国家戦略が大破産しているのに、「財政再建」と称して労働者人民への攻撃だけは強めてくる。こんなことを許してたまるか! 大破産している資本家階級に、労働者階級が猛然と挑みかかる時だ。「国鉄1047名の解雇撤回、民営化絶対反対」を高く掲げて、11・2労働者集会を大高揚させよう。
第1節 正規も賃下げ
日本経済の不況化は、すでに非正規雇用の削減という形で労働者階級に襲いかかっている。07年には非正規雇用は約1894万人で、全体に占める割合は35・5%と過去最高になった。20年前の2倍近く。非正規雇用がこれほど高い割合になって初めての不況を迎え、資本家は真っ先に非正規雇用を切り始めている。
トヨタ自動車は最近3〜4カ月で、デンソーや関東自動車工業など主要5社で派遣社員・期間従業員を約2300人も削減した。悪名高い日研総業は「7月から派遣の解約が出始めた」と言う。
非正規雇用約1894万人のうち仮に1割が削減されるとしても、なんと189万人という膨大な数となる。今ですら生きていけないのに、非正規職からも締め出されたらどうすればいいのか。「非正規職を撤廃せよ、正規職にしろ」という叫びを、11・2労働者集会に結集させよう。
非正規職だけではない。すでに今、正社員も賃下げによって生きていけなくなっている。正社員の賃金は98年以来下がり続けてきた。だから、貯蓄率(可処分所得のうち貯蓄に回した割合)は、06年度にはわずか3・2%に落ち込んだ。97年度から10年足らずで3分の1以下に下がった。貯蓄率は戦後は2ケタ台が普通で、3・2%というのは第2次大戦期以来のこと。
貯蓄する余裕などない、という戦中並みの生活苦になっているのだ。戦時下でもないのにこんな生活苦を強いる資本家階級——絶対にこいつらを憎み倒してやろう。
しかもその上、大恐慌下で賃金はさらに引き下げられようとしている。7月の厚労省調査では、全国の中小企業(従業員300人未満)のうち、賞与や賃金を切り下げた企業が57%にも達している。今後、日本経済が深刻な危機に陥っていくと、資本家階級は全労働者への大幅賃金カットに出てくるだろう。
その一方では、生活必需品価格はますます急騰している。7月にはガソリンが前年比28・7%、灯油が53・2%も上昇した。7月の企業物価は前年同月比7・1%増と、第2次石油危機の際の81年1月以来の伸びとなった。石油危機並みの物価高騰が襲いかかっているのだ。
8月には最低賃金の引き上げが決まった。全国平均でわずか15円の引き上げでしかない。これで初めて時給は700円超となる。しかし、時給700円で1日8時間、月30日間働いても、たった16万8000円にしかならない。こんなので生きていけるか! 最低賃金を大幅に引き上げろ!
第2節 11月大結集へ
今ですら戦中並みの生活苦なのに、さらに賃下げと物価高騰となれば、どうすればいいのか。賃上げを求めて闘うしかない。しかし、資本家は賃上げを認めようとはしない。だから労働組合の最高の武器であるストライキで闘うのだ。それも個々ばらばらだと分断されてしまう。全国の労働者が団結して、ゼネラルストライキに立ち上がるのだ。「生きさせろ」の賃上げゼネストをやろう。11・2労働者集会に、その怒りと決意を総結集させ、1万人の叫びを上げよう。