2008年9月 1日

危機と混迷パキスタン情勢 ムシャラフ辞任・連立与党分裂

週刊『前進』08頁(2357号6面2)(2008/09/01)

危機と混迷パキスタン情勢
 ムシャラフ辞任・連立与党分裂 米帝のアフガン侵略に大打撃

 第1章 シャリフ派が連立与党からの離脱を表明

 パキスタン情勢が大激動に突入している。
 8月18日、パキスタンのムシャラフ大統領が国営テレビで演説を行い、辞任を発表した。クーデター以来国軍の力を背景に権力を握ってきたムシャラフは、ついに辞任に追い込まれたのだ。
 直接の原因は、前最高裁長官を始め60人にも及ぶ判事の更迭などに対する議会での大統領弾劾手続きが差し迫ったことによるが、根底的には労働者人民の怒りの高まりによって打倒されたのだ。
 ムシャラフは率先してブッシュ政権の手先となり、アフガニスタン侵略戦争の決定的な一翼を担ってきた。米帝はこの政権を躍起になってテコ入れしてきたが、ついに見限らざるをえないところに追いつめられた。これによって米帝自身がとてつもない打撃を被ったのである。
 今や米帝のアフガニスタン・イラク侵略戦争、さらにイランへの侵略戦争策動、グルジアでの領土と資源をめぐるロシアとの対立・争闘戦が、総破綻(はたん)の危機に直面している。
 ムシャラフの辞任に続いて8月25日にはパキスタンで政権与党が分裂するという事態にいたっている。今年2月の総選挙で「反ムシャラフ」を掲げ躍進したのが政権与党のパキスタン人民党とイスラム教徒連盟シャリフ派だが、シャリフ派が連立から離脱したのだ。
 人民党のザルダリ共同代表(ブット前首相の夫)は、ムシャラフに追放されていた前最高裁長官チョードリら判事が復職することを拒否した。シャリフ派はこれを「選挙公約違反」と激しく非難し、離脱を表明。ザルダリは前最高裁長官の復職が、かつて追及されていた自分自身の汚職問題再燃につながることを恐れたのだ。
 次期大統領選は9月6日に上下両院と4州議会の間接選挙で行われるが、人民党はザルダリ共同代表を、シャリフ派はウズ・ザマン・ジディキ元判事を候補に立てることになっている。だが、大統領選挙が実施され次期大統領が選出されたとしても、「与党分裂」の影響は大きく一層の政局混迷は不可避だ。
 これは、米帝ブッシュ政権にとって決定的な危機である。アフガニスタン侵略戦争の拠点とも言うべきパキスタンでムシャラフを失っただけでなく、核武装したパキスタンで今後どのような政治勢力が権力を握るか分からない混迷に突入しているのである。

 第2章 タリバン勢力に敗北重ねるパキスタン軍

 ムシャラフは、アフガン侵略戦争の一環として、04年にパキスタンのパシュトゥーン人地域ワジリスタンに軍を送り込み、タリバン掃討作戦を激しく展開してきた。また米軍にとってもパキスタン軍の情報がタリバンとの戦争を進める上でのよりどころになっているのだ。だが、パキスタン軍は度重なる敗北を喫し、掃討作戦は何の効果も上げることができず、パキスタンのタリバンは数万人とも言われる人員を擁するまでにいたっている。ムシャラフ辞任後もタリバンによる爆弾ゲリラや自爆戦闘が続いており、19日には公立病院で約30人、21日には軍需工場で71人が死亡している。
 しかも、アフガニスタンではタリバンが地域を面的に支配するところまで復活し、カルザイ政権はかろうじて主要都市の中心部を押さえているにすぎない状態だ。米軍・NATO軍は、増派を重ねているが、地上部隊がタリバンに包囲される事態が頻発している。
 18日から19日にかけて首都カブール郊外でフランス軍部隊が襲撃され10人が死亡した(ル・モンドの報道では米軍による空爆だったと言われている)。アフガニスタンでの米・NATO軍の死者が、このところイラクを上回る事態が続いている。
 あせりにかられた米軍は、結婚式などの人民の集まりに対し見境なく空爆を繰り返すありさまだ。8月21日にアフガニスタン西部のシンダッドで、子ども60人を始めとした90人の市民が米軍の空爆で殺された。
 何よりも、世界恐慌の深化の中でパキスタンでも食料品価格、原油価格が高騰し、労働者への解雇攻撃も広がっており、労働者の賃上げストが続発し、労働組合権の保障要求や労働組合結成の闘い、非正規職の正規職化を求める闘いが続発している。
 労働者が生きるためには階級の団結した力で、資本による搾取と帝国主義の戦争を打ち砕く以外にないところにまで立ちいたっているのだ。
 当面、パキスタン人民党は米帝の侵略戦争に協力する立場であり、ムシャラフの辞任によって米帝の侵略戦争が直ちに困難になるわけではない。
 第123●章節 米帝の手先化する人民党も怒りの標的に
 だが、米帝に率先協力してきたムシャラフが人民の支持を失ったように、人民党がやがてパキスタン人民の怒りの的になることは避けられない。
 米帝のアフガニスタン・イラク侵略戦争は完全に抜き差しならない泥沼に陥っている。しかし、世界金融大恐慌の激しい進展に追いつめられた米帝は、侵略戦争の拡大で帝国主義間争闘戦を激しく進め、それに打ち勝つことで生き残りをはかろうとしている。それ自身が世界恐慌をもさらに激化させていくものになるのだ。
 今こそ帝国主義打倒へ労働者階級の闘いを爆発させよう。9・27〜28ワーカーズアクションの大高揚をかちとり、11・2労働者集会の1万人結集を全力で実現しよう。
 〔秋原義明〕