激動の世界 世界戦争の火点・グルジア情勢 「民主化拡大」で米帝介入
激動の世界 世界戦争の火点・グルジア情勢
「民主化拡大」で米帝介入 衝突の発端は「夜間作戦」
第1章 ロシアが対抗的に軍事侵攻
8月8日未明、グルジア軍がグルジア共和国から事実上の分離独立状態にある南オセチア自治州の首都ツヒンバリに空陸から総攻撃をかけた。夜通し続いた砲爆撃でツヒンバリは壊滅状態となった。これに対しロシア軍は南オセチアに増派、9日未明にかけ、グルジア軍と激しい戦闘を展開した。ロシア軍はグルジアの首都トビリシ郊外の空軍基地などを爆撃した。
9日以後、ロシア軍は、アブハジア共和国(グルジアから分離独立状態にある)や南オセチアに近いゴリや黒海に面するポチ港、軍事基地のあるセナキなどにも空爆を拡大した。ロシア側は「ツヒンバリはグルジア軍から解放された」と発表したが、激戦は続く。
10日、グルジアのサアカシビリ大統領がロシアに停戦を申し入れた。しかしグルジア軍はツヒンバリ周辺にとどまった。ロシアはグルジア部隊の無条件撤退が必要として停戦交渉を拒否した。
11日、ロシア軍は、南オセチアやアブハジア以外のグルジア領内への空爆と地上侵攻を行った。グルジア側はEU議長国フランスの立ち会いで停戦署名を行った。また同日、ブッシュ米大統領は、ロシアのグルジア軍事介入について「主権国家への侵攻、民主政府への脅迫であり、21世紀には認められない」と最大限に非難した。
12日、メドベージェフ・ロシア大統領はロシア軍の「作戦終了」を表明し、サルコジ仏大統領と会談、「紛争正常化」へ兵力引き離しや武力の不行使など、六つの基本原則で合意した。この後、13日にかけて、サアカシビリもサルコジと会談、ロシアとほぼ同様の6項目の和平案に合意した。戦闘が停止した。
第2章 軍事的「勝利」と政治的孤立
軍事衝突のバランスシートはどうか。ロシア軍がツヒンバリからグルジア軍を撃退し、グルジア領にも侵攻するなど、ロシア軍が軍事的に「勝利」した。6項目の基本原則は、ロシアが求めた「南オセチアに対するグルジアの武力不行使」を加えたが、グルジアが望んだ「グルジアの領土保全」に言及していない。
しかし、「ロシア市民保護」の名によるロシアの過剰なまでの越境攻撃は、欧米やCIS諸国の非難と警戒を呼び起こした。ロシアは国際的孤立を深めている。
グルジア軍の攻撃によってツヒンバリが破壊され、2千人が死亡し、4〜5万人が避難民になった(南オセチアの人口は7万人)ことについては、ほとんど国際報道されない。ロシア軍のグルジアへの侵攻や空爆、ゴリ市民らの窮状(5万人の市民のうち3万人が避難民となった)ばかりが報道=宣伝されている。
米帝が人道的支援の名でグルジアに輸送部隊を送り始めた。2千人のグルジア部隊がイラクから米軍機で帰還し始めた。EUも南オセチアへのEU部隊派遣を検討している。米欧帝国主義が直接、ロシアののど元に軍事展開しようとしているのだ。その上にブッシュは、「制裁措置」としてG8からのロシアの排除を模索している。
米欧とロシアとの緊張関係は、政治的軍事的にますます激化している。
第3章 石油・天然ガスを狙う米帝
今回の軍事衝突の最大の元凶は米帝だ。米帝とグルジアはきわめて意識的計画的な「夜間電撃作戦」として南オセチアに侵攻した。ロシアはこれに受動的に対抗してグルジアに侵攻した。米帝の支援ぬきに8日未明のグルジア軍による大規模な電撃的総攻撃は不可能だ。攻撃は北京オリンピック開会日に始まった。米帝はロシアと戦略的な提携関係にある中国を牽制(けんせい)しているのだ。
ロシアとグルジアの対立は今年、グルジアが将来のNATO加盟を認められたことや、帝国主義諸国の多くがコソボ「独立宣言」を承認したことで決定的に激化した。
7月、ロシア、グルジア両軍が並行して軍事演習を行った。グルジア軍と米軍は7月15日から2週間、グルジア領内で合同軍事演習を展開、1600人が参加した。ロシア軍も同日からグルジアに隣接する北カフカス軍管区で8000人規模の「対テロ演習」を行った。双方が演習の形で軍事的に対峙し、一触即発の状況だったのだ。
グルジアは、米欧石油メジャーがアゼルバイジャン側の会社と合弁で開発したカスピ海原油・天然ガスを欧州側に運ぶ幾つものパイプラインが通過する戦略的要衝だ。米欧帝国主義とその資本にとって、「民主化拡大」でグルジアをロシアから引き離し、自らの影響下に置いて石油・天然ガスを安定供給させることは重大な課題だ。またメジャーは、石油・天然ガス開発に投じた資金を回収するためにもこの地方の「安定」を必要とする。
帝国主義とロシアの資源、市場、勢力圏をめぐる争闘戦の激化でグルジアは新たな世界戦争の火点となった。排外主義と民族抑圧・分断を強め世界戦争に向かう帝国主義をプロレタリア革命で打倒しよう。
(藤沢明彦)