2008年7月21日

世界金融大恐慌が現実に バブル中枢米住宅公社2社が経営破綻へ 島崎光晴

週刊『前進』06頁(2352号4面1)(2008/07/21)

世界金融大恐慌が現実に
 バブル中枢米住宅公社2社が経営破綻へ
 島崎光晴
 

 7月に入って、米政府系住宅金融会社(以下「住宅公社」と略す)である米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)が経営危機に陥った。この2社は米住宅バブルの最もバブル的な核心部をなす。それがついに崩れ始めたのだ。06年からの米住宅バブル崩壊の中で最大の出来事と言っていい。世界金融大恐慌は今や現実のものとなった。すでに生活必需品価格の暴騰とインフレという形で、世界金融大恐慌は労働者階級に襲いかかっている。労働者が生きていくには、本当にプロレタリア革命しかない。そういう時代が完全に到来している。
 

 第1章 住宅ローン債権550兆円保有 資本金はわずか1・6% 証券化商品の信用が崩壊

 06年から始まった米住宅バブル崩壊は07年夏には信用収縮を引き起こし、米・世界の金融危機が噴出し始めた。さらに今年3月には、米大手証券ベアー・スターンズが実質破綻(はたん)し、アメリカ金融恐慌が始まった。「市場はわずか8〜9カ月の間に、信用拡大の絶頂から1930年代以来最悪の信用危機へと転落した」(ニューズウィーク誌4月2日号)
 これに対しFRB(連邦準備制度理事会)は、金融市場にさらに資金を投入するとともに、証券会社に直接に資金を供給する策に出た。ベアー・スターンズ救済だけで300億㌦(約3・2兆円)、1日平均で55億㌦(約5800億円)もの特別融資をした。しかし、こんなもので危機が収まるはずがない。
 6月には株価が、3月の金融恐慌突入の時よりも下がり、年初来の安値をつけた。シティグループとGMの株が「売り」対象とされた。米経済を代表する金融機関と製造業が、市場で「ノー」を突きつけられるという惨状に至ったのだ。
 

 第1節 公的資金投入の重大事態に

 そして7月に入ってついに、ファニーメイとフレディマックという住宅公社2社の経営危機が表面化し始めた。
 2社は住宅ローン業者や民間銀行から住宅ローン債権を買い上げ、住宅ローン担保証券などに仕立て直して市場で売ってきた。この住宅ローン担保証券には、証券が焦げついた時に2社が元利を支払うという保証をつけている(別掲の解説・図1参照)。民間の金融保証専門会社(モノライン)による保証もあるが、近年は政府系の証券化商品の方が圧倒的に多い(図2)。また、2社は投資目的でサブプライムローンを含めた住宅ローン担保証券を保有している。
 この間の証券化商品の価格暴落で、直接保有している分と保証している分の両方で、2社は巨額の損失をこうむった。「すでに両社は破綻状態」との見方すらある。
 この公社2社の経営危機は、米住宅金融の中枢の崩壊を意味する。米住宅金融は、この2社が民間から住宅ローン債権を買い取ることで成り立ってきた。民間の住宅ローン会社や銀行は住宅ローン債権を2社に売って得た資金で、新たな住宅ローンを貸し出すことができたが、それが困難になる。また、米住宅金融は実は、2社が支払い保証をつけることで初めて成り立ってきた。公社2社の保証がなくなれば、証券化商品の信用は完全に崩壊してしまう。
 2社が民間金融機関から住宅ローンを買い取ったり、支払い保証したりしたローン債権は5・2兆㌦(約550兆円)と、米住宅ローン残高全体の半分にも及ぶ。日本の年間の国内総生産(GDP)をも上回る額だ。ところが2社の資本金はわずか810億㌦(8・6兆円)と、5・2兆㌦の債権・保証額の1・6%にも満たない。
 住宅公社は、政府の暗黙の保証がついているのをいいことに、途方もない額の住宅ローン債権の保有・保証をしてきたのだ。ここにこそ米住宅バブルの最もバブル的な核心がある。そのバブルのコア部分がついに崩れ始めたのだ。その破壊力は、従来のどの恐慌とも比べものにならない激烈なものとなる。
 さらに、ファニーメイ債をはじめ公社などの政府機関が発行する債券のうち、外国人による保有額は1兆3050億㌦(約138兆円)にも上る。中国が3760億㌦、日本が2290億㌦を抱える。2社の経営危機は、こうした政府機関債への売り圧力の増大、つまりドル信認の一層の低下を引き起こす。米国債の投げ売りによるドル暴落よりも、政府機関債の投げ売りによるドル暴落の方がむしろ現実味があるのだ。
 これほどの危機だから、米帝は住宅公社への公的資金の注入や特別融資など、ついになりふりかまわない策に訴え始めた。しかし2社の抱える住宅ローン債権は500兆円以上もあるのだ。どんなにあがいても2社の経営危機を抜本的に解消できるはずがない。せいぜい小手先の救済策を繰り返すだけだろう。そうしたのりきりの過程が、結局は世界金融大恐慌を大爆発させていくことになる。今や断言しなければならない。バブルに踊った米・世界の資本家どもには、恐るべき破滅が訪れつつあるのだ、と!
 

 第2節 底なしに下落する住宅価格

 こうした住宅公社の経営危機の背景には、米経済が金融面でも実体経済面でもますます悪化し続けていることがある。
 まず第一に、住宅価格の底なしの下落、住宅ローンの焦げつきの増加、住宅不況の歴史的な深刻化である。主要10都市の住宅価格は今年1月から4月まで連続して2ケタの下落が続いている。しかし、なおバブル部分が全部吹っ飛んだわけではない。サブプライムローンが多いカリフォルニア州では、3月までの1年間の下落幅は6・6%にすぎず、5年前に比べてなお69%も高い。
 住宅差し押さえは1〜3月だけで65万件。サブプライムローンは当初の優遇期間がすぎると金利が大幅上昇するケースが多く、今年中だけで9000億㌦(約95兆円)ものローンが金利上昇を迎える。差し押さえはますます膨大になろうとしているのだ。
 第二に、米金融機関の損失が果てしなく拡大している。サブプライム関連の証券化商品の値下がりで巨額の評価損が発生しているからだ。また、商業用不動産、サブプライム以外の住宅ローン、消費者・企業向けローンの損失も日ごとに膨らみつつある。こうした損失に対し米金融機関は資本増強で対応しようとしている。
 しかし、金融機関の株価が急落し、これまで増資に応じた株主は損失をこうむっており、新たな資金の出し手をみつけにくい。結局、自身の資産を圧縮するしかなく、貸し渋り・貸しはがしに拍車をかけている。
 7月に入って、米地方銀行で住宅ローン大手のインディマック・バンコープが経営破綻した。同社は預金者が解約に殺到するという「取り付け」によって業務停止に追い込まれた。いつ金融恐慌が再激化してもおかしくない情勢だ。
 第三に、実体経済も確実に恐慌に向かっている。4月から所得税減税が実施されており、総額1070億㌦(約11・3兆円)を小切手で還付する仕組みだ。これによって小売売上高は若干の伸びをみせている。しかし、この減税効果も7月中旬には消滅するため、消費は減退していかざるをえない。すでに自動車販売では、6月まで8カ月連続でマイナスとなり、93年以来15年ぶりの低水準となっている。
 また、企業収益面では、主要500社の4〜6月期の純利益が前年同期比11・3%減と、約6年ぶりに4四半期連続で減少する見通し。GMは巨額赤字を出して株価が10㌦を割りこみ、1954年以来の安値となった。GEも1〜3月期に9四半期ぶりの減益となり、4月11日に株価は13%安と、87年のブラックマンデー以来の大幅安となった。GM、GEという米資本主義の屋台骨をなしてきた大企業が、陥没しつつあるのだ。
 これら一切が、今後ますます世界金融大恐慌を加速させるものとなる。特に輸出に依存してきた日本経済は、世界の中で最も打撃をこうむりつつある。世界革命によって帝国主義を打倒する時がやってきたのだ。
 

 第2章 リストラとインフレの爆発 金融緩和で投機資金流入 革命情勢が一気に成熟へ

 世界金融大恐慌は一方で、大リストラおよび生活必需品価格の暴騰とインフレという形で労働者に襲いかかっている。もともと新自由主義攻撃のもとで、世界の労働者階級は革命以外に生きられない状況にあった。これに加え大リストラと生活必需品暴騰の中で、すぐにでも革命をやる以外にない。かつて29年大恐慌後の30年代、世界中で革命情勢が生じた。同じように、世界金融大恐慌下で革命が労働者の生々しい欲求になっているのだ。
 米帝の雇用削減は、金融業・建設業だけでなく自動車や航空会社などにも急速に拡大している。1〜6月の雇用削減数は約47・5万人にも上った。年間で削減数は3年ぶりに100万人を超すのは必至の状況。GMでは早期退職制度に国内工場従業員の約4分の1にあたる1万9000人を応募させた。これで従業員を減らしたうえで、給与を半分ほどに抑えた新賃金制度で新たに従業員を採用する。
 一方、米主要500社のうち223社の最高経営責任者(CEO)の報酬額の平均は883万㌦(約9・3億円)だ(07年)。業績悪化にもかかわらず前年比1・3%増加してさえいる。新自由主義が生み出した事態だ。こんな階級社会は一刻も早く終わらせなければならない。
 一方、「原油をはじめ、ほとんどの一次産品の価格が過去200年間で最高の水準まで上昇している」(ニューズウィーク誌6月11日号)。その最大要因は、米帝が恐慌対策として金融緩和策をとったことにある。
 昨年12月から5月までの緊急の資金供給枠だけで総額3000億㌦(32兆円弱)にもなる。それが商品市場に流入して行った。原油価格の指標となっているニューヨーク商業取引所のWTI先物市場の時価総額は約1800億㌦。ニューヨーク株式市場の時価総額15兆㌦の100分の1の規模にすぎない。資金が株式から原油や穀物など商品市場に移ると、たちまち価格がつり上がる。
 もともと90年代以来、金融経済が肥大化していた。世界の金融資産総額は90年の39・6兆㌦から06年には167兆㌦(約1京7700兆円)に膨らんだ。70年代半ばに製造業が過剰資本状態に陥ったあと、帝国主義は実体経済とかけ離れた金融業で延命してきた。そして米住宅バブルもまた、そうした金融業での投機による延命だった。それが崩れるや、今度は金融緩和で膨大な資金をたれ流し、あげくのはてにインフレを引き起こしてしまったのだ。まさに最末期の帝国主義そのものではないか!
 

 第1節 ドルの没落で延命策尽きる

 また、インフレはドルの没落の結果でもある。ドルの信認の低下につれて、資金がドル資産から商品市場にシフトしている。ドルという国際通貨・金融の要が崩れたことによって、世界の資源や穀物の価格が暴走し始めたわけである。
 世界大恐慌がインフレを伴うというのは歴史的に初めてのことであり、その意味でも末期的だ。29年大恐慌の場合は金本位制だったため、通貨供給量が金の保有量によって制約されていた。だから29年大恐慌の際はデフレとなった。
 第2次大戦後は金本位制を再建できず、金とドルの交換制度によって世界経済体制を再編した。しかし、米経済の没落でその金ドル交換制も71年に廃止された。その後、米帝はドルが依然として基軸的通貨であることにあぐらをかき、ドル本位制とも言うべきドル体制を世界に押しつけた。80年代以降の米経済での金融肥大化と21世紀に入ってからの住宅バブルも、そうしたドル体制下で初めて生じた。しかし今やこの全構造が崩れ、金融恐慌とドル没落が同時に起き、それがインフレを噴出させる結果となっているのだ。それは、戦後帝国主義−現代帝国主義のあらゆる延命のあり方が、すべて行き詰まったことを意味する。
 帝国主義がなんとか延命してきた時代は終わったのだ。帝国主義を打倒すること、これこそが唯一の解決だ。それこそが労働者階級の解放の道だ。
 革命のために、労働者階級の共同の事業として革命党をつくりだそう。党こそ最高の団結体だ。階級の指導部となって、ともに党を発展させよう。すべての「前進」読者は革共同に結集しよう。8・3革共同集会をともにかちとろう。
◆解説◆
 米住宅公社
 米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)、米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)は、形式上は民間会社だが、政府の影響力が強い「半官半民」的機関で、政府支援機関と呼ばれる。
 2社は債券を発行して資金を調達する。その資金で住宅ローン会社や銀行から住宅ローン債権を購入する。それを住宅ローン担保証券に組み替えて投資家に売却する。その際、証券が焦げついた場合、公社が投資家に元利を支払う保証をつける。
 2社が発行する社債は、従来は米国債並みの信用を得てきた。また、政府の暗黙の保証がバックにあるから、2社の住宅ローン担保証券も信頼されてきた。このため2社が発行する社債は、米国債発行規模の3割強にあたる1・6兆㌦(約170兆円)に、2社が保有・保証する住宅ローン担保証券も、米住宅ローン総額の半分近い5・2兆㌦(約550兆円)に膨張した。