2008年6月 2日

つぶそう!裁判員制度 (中) 戦時型裁判への転換狙う 被告の権利奪って迅速裁判 裁判闘争の破壊策動許すな

週刊『前進』08頁(2345号8面2)(2008/06/02)

つぶそう!裁判員制度 中
 戦時型裁判への転換狙う
 被告の権利奪って迅速裁判
 裁判闘争の破壊策動許すな

 裁判員制度に反対する闘いが全国各地で巻き起こっている。5月24日には、栃木県弁護士会で新潟県弁護士会に続いて、裁判員制度の実施延期を求める決議があがった。NHKの世論調査でも裁判員に参加したくない人が77%で、参加してもよい人は18%にすぎない。
 「市民の司法参加」とか「国民に開かれた司法」という美名のもとに強行されようとしている裁判員制度とは、「裁判」と言えるような代物ではまったくない。
 被告人の基本的人権の保障や、裁判の「公平・公正」という建て前すら投げ捨て、国家権力がひとたび起訴するや、直ちに重罰を科して監獄に送り込むことを狙った「戦時型裁判」そのものだ。裁判の「迅速・重罰・密室化」であり、法廷内外における裁判闘争の破壊こそが、その目的なのである。
 裁判員制度について、前回は裁判員に強制動員されることの攻撃性を明らかにした。今回は「裁判」自体の戦時型への大転換について暴露・弾劾する。

 第1章 連日開廷し3日で判決

 裁判員の参加する「公開」の法廷は、連日開廷となり大半の裁判は3日目で判決となる。最高裁は5日もあれば、約9割の裁判が終了すると言っている。
 たった3日や5日の裁判で、国家権力による政治的弾圧を徹底的に弾劾したり、デッチあげの事実を暴いたりすることがどうしてできるというのだ。裁判の不当性、国家権力の反人民的強権性を全社会的に明らかにし、裁判闘争を支援する大衆運動の爆発をたった3日や5日で実現できるはずがない。
 迎賓館・横田爆取デッチあげ裁判では、徹底的にデッチあげ弾圧を弾劾する闘いを法廷内外で16年間繰り広げて、東京地裁で無罪判決をかちとった。一方、東京高裁は、実質審理を1回もやらずに逆転・差し戻し判決を下した。
 これを見る時、連日開廷し、わずか3日で判決を出すという「裁判員制度」なるものが、いかに裁判闘争を破壊し、「被告人」の防御権を剥奪(はくだつ)するものであるかは明白である。
 裁判員制度実施の延期決議をあげた新潟県弁護士会の弁護士は、「裁判員の模擬裁判を経験して制度導入反対に回った。夜中の3時まで書面準備を行いがんばってみた。しかし、たった3日間で被告人の防御など、できないことを実感した」と語っている。
 裁判員制度の裁判は、裁判開始前に、非公開の「公判前整理手続」が行われる。
 これは、裁判員法成立にあわせて改悪された刑事訴訟法で新設されたもので、多くの問題があることが指摘されている。だが裁判員制度実施の前にすでに多くの裁判で強行されている。

 第2章 「公判前整理手続」とは

 「公判前整理手続」とは、裁判官・検察官・弁護人(場合によっては被告人も)だけの「密室」(非公開)で、裁判所が「争点」を整理したり、取り調べる「証拠」を公判(公開法廷)の前に決めてしまうものだ。
 ここでいったん決めた「争点」や「証拠」は、簡単には変更したり追加したりはできない。被告人を起訴した検察官は国家権力と強制捜査権を使って、デッチあげも含めた「証拠」を集めることが可能だ。他方、被告・弁護側は「被告人」の身柄が拘束されたままであるし、強制捜査権もない。このように国家権力と被告人との間には歴然とした力関係の差が存在する。にもかかわらず、検察側も被告・弁護側も裁判開始前に、それぞれの「主張」と、それを証明する「証拠」を出すことが義務づけられる。これでは、被告・弁護人の防御・弁護活動は実質的に奪われたも同然だ。
 しかも、裁判の行方を決めてしまう重要な手続きが、非公開の密室で行われるということは、裁判公開の原則まで崩壊させるものだ。

 第1節 開示証拠の利用を大幅制限

 公判前整理手続のために証拠開示の拡大がうたわれているが証拠の「全面開示」にはほど遠い。
 さらに、裁判開始前から、被告・弁護側の主張とその証拠を出せということは、黙秘権の侵害そのものである。
 その上、開示した証拠の「目的外の使用」を処罰することを規定する刑事訴訟法の大改悪を行った(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)。
 これは、開示証拠を使って被告人の無実や裁判の不当性を広く労働者・人民に訴えて、大衆的救援運動を闘いとることを禁止しようというものだ。マスコミ関係者からも、裁判報道ができなくなると批判の声があがっているほどだ。
 裁判員制度では、有罪か無罪かの判断や量刑などの評決において、裁判官と裁判員の双方を含む多数決で決めることになっている。無罪だと思う人がひとりでもいれば、有罪とするには疑いがあることを意味する。ところが多数決で決めてしまうことになると、「疑わしきは被告人の利益に」「無辜(むこ=無実の人)不処罰」という刑事裁判における大原則を、跡形もなく崩壊させてしまうことになる。
 これまで暴露したとおり、そもそも公判前整理手続で裁判官が結論に向かってのレールを敷いており、さらに裁判員参加の公開法廷はたったの3日しかない。このような限られた条件のもとでは裁判官の判断が裁判員の判断をリードすることは想像にかたくない。「市民が裁判に加わることで冤罪が少なくなる」というのは虚偽のイデオロギーなのだ。
 日帝・国家権力は、戦時型裁判への大転換を行おうと、強権を発動して「迅速、重罰、密室化」の攻撃を推し進めてきている。だが一方で、この攻撃への労働者階級・人民の怒りの反撃もまた巻き起こりつつある。「裁判員制度」とは、人民の反撃を恐れ、戦時型裁判の破綻(はたん)性、反人民性を隠蔽するために、労働者人民を取り込んで戦時司法を強行しようというものだ。怒りを込めて粉砕しよう。

 第3章 裁判長の指揮権を強化

 裁判員制度が想定する迅速裁判を実現するために裁判長の訴訟指揮権が大幅に強化される。
 弁護人が公判前整理手続に出頭しない恐れがあるだけで、職権で弁護人を付けたり、その国選弁護人を解任できるなどの権限を裁判長に与えた。また、弁護人処置請求といって、「弁護人が……審理の迅速な進行を妨げた場合」には、裁判所に弁護人の所属弁護士会または日弁連に対して懲戒処分などを請求することを義務づけている。

 第1節 団結の拡大で制度粉砕を!

 裁判員制度のもとでの裁判は、もはや裁判とは言えない。戦争と新自由主義攻撃に対する労働者階級・人民の怒りが日々強まり、日帝の矛盾と危機は拡大している。この労働者・人民支配体制の危機に裁判員制度の導入=改憲攻撃で延命しようとする攻撃を許すな。
 労働者階級の階級的団結の拡大で、裁判員制度を粉砕しよう。6月13日、日比谷公会堂でおこなわれる「裁判員制度はいらない! 全国集会」に大結集しよう。
 〔村上進一〕