2008年6月 2日

弁護人更新意見 第1章 〈資料〉 弁論分離がなぜ不可避であったのか

週刊『前進』08頁(2345号2面3)(2008/06/02)

弁護人更新意見 第1章 〈資料〉
 本裁判闘争の新たな展開
 弁論分離がなぜ不可避であったのか

 5月23日の国労5・27臨大闘争弾圧裁判第87回公判で弁護団が陳述した更新意見のうち、「第1章 本裁判の新たな展開 弁論分離がなぜ不可避であったのか」を紹介します。(編集局)
第1 はじめに
 刑事裁判の闘う主体は、言うまでもなく被告人本人である。国家刑罰権発動の対象として法廷に引き出され、国家権力によって生命・身体・財産を直接奪われようとするのは被告人であり、もって被告人はその攻撃に立ち向かうあらゆる防御を尽くす権利を有する。弁護人とは、被告人のその防御権行使の補助者であり、被告人の利益のため、その意思にしたがい全力を挙げて被告人の防御権行使を援助する義務を負っている。したがって、被告人本人と弁護人との間には強い信頼関係が存在すべきであることは言うまでもない。
 ところが、本裁判においては、被告人と弁護人とのかかる基本関係が損なわれる事態が生じ、松崎被告人をのぞく7被告人による弁護人全員の解任と、それによる当然の結果として弁論の分離を不可避とするに至ったのである。
 以下、弁護人からもその経緯を簡潔に述べることにする。
第2 防御方針の基本における相反
 1 本件は、国労闘争団員を統制処分に付そうとした国労本部に対し、被告人らが抗議のビラまき・説得活動を行ったことを「暴力行為」に仕立て上げられた事件である。したがって、国労本部に対する姿勢と評価が本件刑事事件の防御活動にとって重要な要素となることは明らかである。
 ところが、松崎被告人は、国労本部が2006年12月、鉄道建設・運輸施設整備支援機構に対し、解雇撤回・原職復帰を求めず損害賠償のみを請求した訴訟を提起するや、これを評価するという立場を表明した。他方、7被告人は、松崎被告人を含む8被告人を公安警察に売り渡した国労本部をあくまで弾劾しぬく立場を当時も今日も堅持している。松崎被告人は、2007年1月から2月にかけて、直接に名指しこそしないものの「あるグループの人たち」と誰が見てもわかる形で、7被告人を「腐り果てた姿」などと非難するビラを配布した。
 2 さらに、松崎被告人は本年4月18日付で「5・27国労臨大闘争弾圧裁判における革共同7被告の『分離裁判要求』を弾劾する」とした文書をホームページ上に出し、7被告人との対立を一層深めた。
 松崎被告人は、「7被告や国労共闘は、本部派の訴訟を『金目当ての妨害物』として切って捨てているようであるが、果たしてそれだけの批判ですむのかということである。今日的には『四者・四団体』の共闘に対する態度として貫かれている。私がこれを批判せずに評価しているから共同被告人の関係を絶つとも言っている」と言い、国労本部が主導する動労千葉を排除した4者・4団体の「政治解決」路線をなんら批判せず、むしろこれを評価する立場に立ったことを公然と表明したのである。
 こうした松崎被告人の主張を敷衍(ふえん)すれば、「鉄建公団訴訟原告の統制処分に抗議して行われた本件5・27臨大におけるビラまき・説得活動の正当性は、国労本部による訴訟提起によって明らかになった」ということになる。つまり松崎被告人にとっての本件ビラまき・説得活動の意味は、結局のところ、国労本部をして訴訟を行わせ、4者・4団体の枠組みでの「政治解決」路線を生み出したことにあったということであり、現在では5・27臨大当時の国労本部の問題性は解消されたということなのである。
 3 これは、7被告人の主張とは根本的に対立する。7被告人にとって本件ビラまき・説得活動は、4党合意を受け入れてJR採用差別事件の解決を政府や与党にゆだね、JR資本との対決を回避してきた国労本部の方針を根本的に批判し、4党合意受諾によって必然化した自民党の指示に基づく鉄建公団訴訟原告への統制処分を阻止することによって、国労を階級的な労働組合として根底から立て直すためのものにほかならなかった。
 だから7被告人は、本件ビラまき・説得活動の精神を現在も貫くために、国労本部が主導する4者・4団体の「政治解決」路線を徹底的に批判し続け、動労千葉と連帯してJR資本と対決してこそ1047名の解雇撤回はかちとれると訴えて、自らその闘いを実践しぬいているのである。
 4 本件85回、86回公判で富田益行被告人は、尼崎事故を引き起こしたJR西日本の責任を追及し、事故原因となった「魔のカーブ」を告発して「安全なカーブに造り直せ」と要求する自身の職場における闘いについて明らかにした。これは、鉄道の安全と現場労働者の命を守る闘いであると同時に、現場に1047名の被解雇者を取り戻すための闘いでもある。1047名は、鉄道の業務に精通し、安全確保のために労働者として主張すべきことは主張して労働組合活動を行ってきたからこそ、国鉄当局の憎悪を浴びてJR不採用とされたのである。端的に言えば、1047名をJR職場に取り戻してこそ、鉄道の安全は保たれるということである。
 こうした立場に基づく7被告人の闘いにこそ、本件ビラまき・説得活動の神髄は貫かれている。国労の階級的労働組合への変革である。
 この7被告人の立場が、以上述べてきたように、松崎被告人とはまったく相容れるものでないことは何人の目にも明らかである。
第3 従前の弁護団の解任について
 1 7被告人は去る2月22日に従前の弁護団(以下「旧弁護団」)を解任した。防御方針をめぐる根本的な対立が生じていたからである。
 旧弁護団は、そのもとに裁判に関する事務を処理する「裁判事務局」を設けていたが、その事務局員の一人のAは、動労千葉を中心とする労働運動路線、ひいては国鉄闘争の路線と裁判方針をめぐって7被告人と意見が対立するようになり、Aと7被告人との信頼関係は喪失するに至ったため、7被告人はAを解任し、旧弁護団に対し同人を裁判に関与させないでほしいと求めた。
 2 ところが、旧弁護団は、同事務局員を弁護人の補助者として使うことを、7被告人に容認するよう迫り譲らなかった。
 かくして、7被告人は2月22日、旧弁護団に対して、Aを補助者としても使わないこと、被告人の原則的に闘う立場を尊重されたい等の強い意向をこめた申し入れを行ったが、旧弁護団はこれを拒否した。その結果、7被告人は旧弁護団を解任せざるを得なくなったのである。
 3 これは、一事務局員をめぐる問題に止まらず、本件裁判の最重要争点である、ビラまき・説得活動の正当性の根拠をめぐる根本的な対立がはらまれていた。
 7被告人にとって本件ビラまき・説得活動の目的は、「1047名問題の政治解決」の名のもとに政府・与党にどこまでも屈服して被解雇者の闘争団員に統制処分を加えようとした国労本部を徹底的に弾劾するとともに、職場からJR資本と対決する闘いを国労本部の抑圧をはねのけてつくり出し、その力で1047名の解雇撤回を実現することにあった。同時にそれは、国労を動労千葉と並ぶ階級的な労働組合へと生まれ変わらせるための闘いでもあった。
 ところが旧弁護団は、動労千葉に公然と敵対するAを、あくまで裁判に関与させると主張した。そして、被告人の強い反対があったとしても、弁護人が自主的判断でAを補助者として使用することは、被告団の団結や裁判闘争に悪影響が生じないと言明していた。旧弁護団のこの姿勢は、被告人の主体的意思をないがしろにする態度の現ればかりでなく、7被告人にとって、本件ビラまき・説得活動の正当性が、自ら選任した弁護人の手で根本から歪められ踏みにじられるという、衝撃的な事態だった。
 4 したがって、弁論が分離されない限り、7被告人は、防御方針が相反する松崎被告人と法廷で対立しなければならないだけではなく、すでに解任した旧弁護団の存在により、検察官と松崎弁護団とに対する二重の防御を強いられる不合理に見舞われることは避けがたかったのである。
 7被告人の弁論分離請求に対し、松崎被告人やその弁護団は、「『分離裁判絶対反対』は刑事弾圧と闘う裁判闘争の普遍的な方針」とか「権力を喜ばせるもの」などと言っている。しかし、それは明らかな欺瞞(ぎまん)だ。例えば、被告団の中から権力への投降者が生じたときには、防御の方針は明らかに相反するに至る。その場合の統一公判とは、権力側の攻撃にほかならないことは明らかではないか。
 また、本件弁論分離請求に対し、検察官は、「併合審理が相当であり、分離請求は直ちに却下すべき」と主張した。「権力を喜ばせるもの」は、一体どちらであったのか、言うまでもあるまい。
第4 結語
 結局、7被告人の弁論分離の要求は実現した。
 被告人とわれわれ弁護人は、文字通り「自由活発な訴訟活動」を今後自在に展開しつつ、本件政治弾圧を打ち破り無罪を闘い取る決意である。