2008年5月26日

つぶそう!裁判員制度 (上) 100万人に今年「赤紙」届く 団結・階級意識の破壊狙う 来年5月実施を阻止しよう

週刊『前進』06頁(2344号6面2)(2008/05/26)

つぶそう!裁判員制度 (上)
 100万人に今年「赤紙」届く
 団結・階級意識の破壊狙う
 来年5月実施を阻止しよう

 来年5月の裁判員制度実施に向かって山口県光市の「母子殺害」事件などがセンセーショナルに取り上げられ、被害者の報復感情と重罰化があおられている。「あなただったらどう裁くか」と繰り返し問いかけられている。これに真っ向から「ノー!」の声を上げる大集会が6月13日に日比谷公会堂で開かれる。司法改革に反対する弁護士らが呼びかける「裁判員制度はいらない!6・13全国集会」だ。大結集し、戦時司法動員攻撃そのものである裁判員制度を労働者階級の団結で葬り去ろう! 3回にわたり裁判員制度の問題点を明らかにする。

 第1章 82%が「やりたくない」

 来年5月21日の裁判員制度実施に向かって、裁判員候補者名簿への記載通知と調査票が年末までに約100万人に届く。そのための準備作業が自治体労働者を動員して始まっている。
 一方、今年4月1日に最高裁が発表した意識調査では、82・4%の人が裁判員制度に参加したくないと表明した。2004年5月の法成立以来、「理解と関心を深めるための措置を講じること」まで定め、取り組んできた結果がこれだ。当たり前だ。国家権力と一緒になって「他人の人生や生命を奪いたい」などと誰も思わない。
 国家権力はなぜ、裁判員制度の強行にこだわるのか。
 裁判員制度とは、死刑や無期刑を科しうる重大事件の裁判に、労働者人民を強制的に動員するものだ。ひとつの事件につき、3人の裁判官と6人の裁判員が配置される。裁判員は、有罪か無罪かを決める評決(多数決)に参加し、有罪の場合には死刑を含む量刑をも決めさせられる。被告人は裁判員の参加する裁判を拒否することができず、3〜5日程度の短期間の連日法廷で裁判が行われる。
 「市民の司法参加、国民主権の実質化」で「自由や権利を守る」などと、日弁連執行部までが大賛成しているが、まったくのウソだ。
 まず裁判員への参加は、権利ではなく辞退のできない強制だ。出頭しなければ10万円以下の過料。一生の間、裁判の内容を口外できず、違反すれば6カ月以下の懲役か50万円以下の罰金が科せられる。多数決による評決は、「疑わしきは罰せず」という刑事裁判の大原則を全面否定している。さらに、公判前整理手続の密室で裁判官が証拠と主張をすべて選別した上で裁判が開かれるので、裁判官は結論をどうにでも誘導できる。裁判は儀式となり、裁判員はただの飾りにすぎない。
 裁判員制度の本当の狙いは何か。裁判制度を「迅速、重罰、密室化」の戦時司法へ転換させ、資本家階級によるむき出しの搾取と戦争の遂行に必要な統治のあり方をつくり出すことだ。
 階級矛盾の激化の中で労働者階級の怒りに直面した資本家階級の、延命をかけた絶望的なあがきだ。だからこそ、死刑・無期といった国家による刑罰=暴力の露骨な発動に、労働者階級を強制的に動員することが必要なのだ。
 労働者の側からすれば、階級的な怒りの矛先がねじ曲げられ、団結と階級意識(「資本家階級と労働者階級は非和解だ!」という意識)を破壊される攻撃だ。

 第2章 労働者人民の戦時動員

 裁判員制度を中軸とする司法改革を全面的に打ち出した司法制度審議会の意見書(01年6月12日、以下、意見書)では、「国民の統治客体意識から統治主体意識への転換を促す」などと、労働者階級人民を分断して国家の側に立たせる、とあけすけに語っている。
 しかも、「刑事手続に一般の国民の健全な社会常識を直截(ちょくせつ)に反映させる」などと、ナチスドイツ時代の刑法の「健全な民族感情に従って処罰する」と同一のイデオロギーを打ち出している。
 裁判員制度は、資本家階級によるむき出しの階級支配を、言わば「赤紙」(召集令状)と、労働者階級人民を相互に監視させる「隣組」制度で支え、さらなる搾取と戦争を強制する卑劣で許すことのできない攻撃だ。
 裁判員選任のしくみを簡単に整理してみる。
 裁判員制度が適用される重大事件は、過去の統計では年間で約3700件前後にのぼる。
 一つの事件につき、裁判員6人と裁判官3人が担当するが、その6人は、最大100人ほどの裁判員候補者から質問票と面接で絞り込まれていく。あらかじめ提出させた質問票の回答が、定められた辞退理由に該当しない限り、裁判員を辞退することはできない。あくまで「やりたくない」と主張すれば、個人の内面にまで踏み込んだ思想調査は避けられない。
 こうして毎年37万人前後に裁判所から呼出状と質問票が送りつけられることになる。最高裁は、こうした試算などによって、有権者の約0・3%が裁判員制度に関わるとしている。
 しかし、この数字にはゴマカシがある。裁判員候補者の母体となる裁判員候補者名簿の数が明確にされていない点だ。
 裁判員候補者名簿は、市町村の選挙管理委員会が選挙人名簿からくじで選んだ名簿に基づき、各地方裁判所が作成する。そして、地方裁判所は、裁判員候補者名簿に記載された者に調査票を添えた通知を送りつける。この調査票をもとに、警察官や学生や病人や70歳以上の者、特に困難な辞退理由がある者などを除外して、裁判員候補者は選ばれる。だから、最初に調査票を送りつけられる者の数は、37万人などをはるかに上回り、100万人に及ぶ可能性がある。そうなれば、年末ごとに有権者の100人に1人の割合で「赤紙」が届くことになる。誰もがわが身に引きつけて「人を裁く」ことを考えざるをえなくなる。マスコミを総動員した事件報道や、キャンペーンと一体となって、労働者階級人民を、資本家の階級支配の防衛隊につくり変えようというのだ。

 第3章 新自由主義攻撃粉砕を

 裁判員制度を中軸とする司法改革攻撃は、国鉄分割・民営化を強行した「国鉄改革」、小選挙区制を導入した「政治改革」をはじめとする行政改革、規制緩和、民営化攻撃などに続く、「『この国のかたち』の再構築に関わる一連の諸改革の『最後のかなめ』」(意見書)として位置付けられている。労働者階級の団結と獲得物を破壊して、むき出しの強搾取と貧困と戦争を強制する新自由主義攻撃そのものだ。
 同時にそれは、あからさまな改憲攻撃そのものであり、裁判員制度を中軸に据えて、戦後の統治のあり方を根本的にくつがえそうとするものだ。
 しかし、これら一連の攻撃は決定的に行き詰まり、世界金融大恐慌と労働者階級の底知れぬ怒りを呼び覚ましている。末期状態に陥った福田政権と日帝支配者階級は、もはや統治能力を失っている。だからこそ彼らは、ますます裁判員制度にしがみつくほかない。
 われわれは、裁判員制度など断じて認めない。労働者階級が裁くのは、人間を食い物にし、虫けらのように踏みにじってきた資本家階級の一切の罪であり、下す「判決」は革命だ。
 階級的団結の力で、来年5月実施予定の裁判員制度を、改憲もろともぶっとばそう!
 (朝霧恒太)