2008年4月21日

〈焦点〉 イラク危機と追加撤退見送り 米軍13万の長期駐留狙う

週刊『前進』06頁(2340号3面5)(2008/04/21)

〈焦点〉 イラク危機と追加撤退見送り
 米軍13万の長期駐留狙う

 米大統領ブッシュは4月10日の演説で、昨年1月以降の米軍3万人増派により「イラク情勢は戦略的な転換を遂げた。成功する見通しが復活した。治安は著しく進展した」と強弁してみせた。
 だがこの「治安の進展」なるものは、米軍によるスンニ派「覚醒(かくせい)評議会」の育成などによる、イラク西部アンバル州など一部地域での一時的事態にすぎない。現にブッシュは「アルカイダの残党の掃討」や「イランの破壊的な影響力の排除」の必要性を特に訴えざるを得なかったばかりか、何よりもイラク駐留米軍司令官ペトレイアスの8日の勧告に基づき、昨年増派した約3万人の部隊の撤収は7月に行うが、その後の追加削減を休止するという方針を正式表明したのだ。また戦闘の長期化で部隊が疲弊しているため、イラクとアフガニスタンへの派兵期間を15カ月から12カ月に短縮するとも表明したのである。
 これによって13万人規模の米軍駐留が夏以降もさらに継続されることになり、年末までに10万人規模に削減するとした当初の方針は崩壊した。しかも増派部隊撤収後の「評価期間」について、ブッシュは「必要なだけの時間を設ける」と表明、45日間を求めたペトレイアス司令官の判断を受け入れた。「評価」次第で再び米軍を増派するということだ。
 今やイラクでは、シーア派とスンニ派の対立、シーア派内対立、アルカイダ勢力の再流入などを含め、反米ゲリラ戦争と内戦が再激化し、一時的な「治安の改善」は崩壊した。米帝の侵略戦争は新たな危機と泥沼化を深めている。また何よりも石油産業などの労働者が、米帝とマリキ政権への怒りの反撃を強め、ストライキなどで闘っている。駐留米軍を徐々に撤退させ、イラク治安部隊に代替していくなどという、インチキな米帝のシナリオは、すでに完全に破産している。米帝が帝国主義である限り撤退などありえないのだ。
 この間、米軍の空爆などの支援を受けたマリキ政権の治安部隊は、南部バスラなどで対米強硬派=サドル師派のシーア派民兵組織マフディ軍への掃討作戦を開始したが、サドル師が戦闘停止を呼びかけたにもかかわらずマフディ軍が頑強に抵抗し、南部やバグダッド東部のサドルシティーなど各地で内戦が激化・拡大した。マリキ政権自体が崩壊寸前なのだ。
 一方、イラクへの大規模駐留の継続は、金融恐慌と財政赤字にあえぐ米帝に、4000人を超えて増大する米軍死者の問題をしのぐ耐え難い戦費重圧としてのしかかっている。米コロンビア大学のスティグリッツ教授は、今年のイラク戦費は1カ月で120億㌦(約1・2兆円)と試算する。すでに米帝の財政赤字は08会計年度(07年10月〜08年9月)の上半期で3114億㌦(約31兆円)、過去最高になろうとしているのだ。
 イラク米軍の追加削減中断方針に対し、大統領選候補指名を争うマケインも、ヒラリーもオバマも、基本的に賛成だ。労働者階級が選択すべきは民主党でも共和党でもない。米帝打倒だ。6—7月サミット粉砕決戦で国際帝国主義打倒と世界革命を切り開こう。