〈焦点〉 沖縄戦裁判で大江氏側が勝訴 検定意見撤回闘争の地平
〈焦点〉 沖縄戦裁判で大江氏側が勝訴
検定意見撤回闘争の地平
沖縄戦時に座間味島、渡嘉敷島で起きた「集団自決」(強制集団死)は戦隊長が命じたとする本の記述をめぐる「集団自決」訴訟(岩波・大江裁判)で3月28日、大阪地裁・深見敏正裁判長が被告側勝訴の判決を出した。大江健三郎氏の『沖縄ノート』(岩波新書)が梅沢裕(座間味)と故赤松嘉次(渡嘉敷)の両戦隊長への名誉棄損にあたるという出版差し止めと賠償の請求は棄却された。
判決は、①集団自決には軍が深くかかわり、元隊長らの関与も十分推認できる、②書籍に記載されたとおりの自決命令自体まで認定することはちゅうちょする、③自決命令があったと信じる相当な理由があり、元戦隊長らへの名誉棄損は成立しない、としている。
この判決は、昨年9月29日の12万人県民大会を頂点とする沖縄の労働者人民の教科書検定に対する怒りの決起、重い口を開いた体験者の証言、被告を支える広範な人民の闘いなど、人民の闘いが引き出した決定的な勝利である。
昨年3月、高校教科書の沖縄戦「集団自決」の記述に関し日本軍による強制を削除させる検定意見をつけた際、文部科学省はこれまでと違う理由として05年に岩波・大江訴訟が起こされたことをあげ、この訴訟での梅沢の陳述書を「軍命」否定の根拠としていた。原告側弁護士はこの検定結果を聞いて「これでこの訴訟の目的は半ば達成された」と勝ち誇った。
つまり、この訴訟は、安倍を始め極右天皇主義者、「新しい歴史教科書をつくる会」などの一連の侵略戦争美化の攻撃の一環であり、沖縄人民を再び沖縄戦の道に引きずり込もうとする攻撃だった。改憲攻撃そのものである。
判決は、「集団自決」を軍の命令と理解した多くの体験者の証言を重視している。日本軍の貴重な武器である手榴弾(しゅりゅうだん)を配っていること、「敵と通謀する恐れがある」として赤松が多くの住民を「処刑」していることなどを指摘し、命令していないとする梅沢らの陳述は不自然であるとして退けている。
両島併せて500人もの悲惨な死をもたらした戦隊長が、「名誉を傷つけられた被害者」として振る舞い、「集団自決」を「国のために自ら進んで命を差し出した美しい死」としてたたえ、再び人民に戦争協力を強制する先兵となっていることは、これ以上ないグロテスクな倒錯である。
敗訴した原告側は破産し追いつめられながらも、直ちに控訴して争うと言っている。怒りを込め粉砕しよう。
労働者人民の闘いが敵の攻撃を押し返した。沖縄戦総括は日帝の致命的な弱点だ。「軍命」を削除した教科書が今年から使われるが、沖縄では教育労働者が副読本を使って歴史の真実を教えようとしている。文科省に検定意見をあくまで撤回させる闘いをさらに強め、教育現場と全社会で沖縄戦の真実を伝えよう。根津公子さんを始め、不屈の教育労働者の闘いが10・23都教委通達も教育基本法改悪も新学習指導要領も無力化させているように、労働者階級の現場の闘いが決定的に重要だ。勝利の確信も固く追撃しよう。